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ウタカタノユメ

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悪(わる)①

こんにちわ。

いつもこんな辺境まで足をお運びいただきありがとうございます。
9月に入り、残暑が厳しく、しかも自律神経をやられたようで、めまい、吐き気、動悸、息切れ、倦怠感でどうも体調が芳しくありません。

いや、もう、トシだからと、言ってしまえば簡単なんですが、だからと言って休むわけにもいきませんので、とにかく体は騙し騙しでなんとか耐えてます。あ~、また動悸が~~。恋?(違うでしょ)


というわけで、少女、少年と続きまして、お次は青年。しかも、悪い青年です。
この男も単純明快な男でしたね。
コミックスを読み返したんですが、左之助の可愛いこと(笑)
なんか、しもぶくれでプクプクして可愛いの。
でも、コイツは最終的に私好みのマッチョになって大陸で大暴れしてくれるんで、とても好みであります。

では、どうぞ、お付き合い下さいませ。



弱い
弱い
弱い

もっと強く、更に強く、最強になれ、と誰かが煽る。
その都度、その声の主を探し、けれど結局探せず、弱さを思い知るのだ。
ああ、もっと強く。望めば望むほど、弱さを思い知る。

「左之ちゃん!?ちょーっと左之ちゃーん」

耳元で熱い吐息をかけられて、ハッと現に戻された。
もう、部屋は明るい。布団と言っても、安くて趣味の悪い煎餅布団はすっかり生が抜け、ともすればピリピリと音を立てて一直線に破れてしまいそうなほど、年季が入っている。
熱い吐息はすでに自分の顔から離れて、その口からたばこの煙を吐き出している。
ゆうべはなじみの女郎屋で、久々に儲けた金で女を一晩買った。女と言ってもこんな場末の女郎屋などたかが知れている。それでも一時の快楽に溺れられるなら、それもいいかもしれない。

「うーん、良く寝た」

相楽左之助は、裸のまま布団の上で伸びをする。
「えー?良く寝たって、あんた、さっきうなされてたわよぉ?」
一応体裁で襦袢を羽織ってはいるが、乳房が丸見えのだらしない格好で、女郎は肩膝をついて湯呑の白湯を一気に飲み干した。
「そりゃ、おめえ、おめえが耳元でハーハー息ふっかけるからだろう。気色わりいことすんな」
左之助は女郎が吸っていた煙草を横取りして、自らも口に含んだ。
「なーに、言ってんだよ。だらしないったらありゃしない。あんた、まだ19だろう?二回でお仕舞かい?」
「おめえごときに、二回もして差し上げたんだ、感謝しろ」
憎まれ口を叩きながらも、左之助は女郎の膝に頭を預けた。
「ちょっと何甘えてんのさ?今からもう一発やろうってのかい?お天道様がお怒りになるよ」
「あ、俺、関係ねえ、そんな迷信」
左之助の手はもう太ももをまさぐっていた。

…そうでもしなければ

夢の中で煽られた不快な思いは消えそうもないから。
弱いとさげすまされるあの不快な思いなど、早く消えてしまえと、左之助は力任せに女郎を布団の上に組み敷いた。


「用心棒?」


箱枕を抱きかかえた左之助は、自分にしなだれかかっている年増の女郎を横目で見た。
「ああ、そうさ。比留間って野郎でさ、兄弟であくどい事してるらしいけどね。そいつらが用心棒を探してるんだってさ。左之ちゃん、あんた結構強いんだからさ、やってみればいいじゃない。たんまり貰えるらしいよ」
女郎は自分もおこぼれに預かれると踏んだのか、親指と人差し指で輪っかを作って、左之助の前にチラつかせた。

「比留間だぁ?聞いたことねえな」

ま、このご時世、金さえあれば何でもできるのだ。新しい時代になったとは言え、貧困は社会を揺るがしている。特に、武士崩れは悲惨なものだ。だからこそ、強いものが生き残れる。金に強いヤツ、腕っぷしが強いヤツ。どちらか選べと言われれば、この男は間違いなく後者を選ぶ。
「目当ては金じゃねえけどよ」
くるりと仰向けになる。天井の木目を視線が追う。
「どっかに猛者がいるんだったら、相手してやってもいいなぁ」


その日のうちに比留間に会いに行った。見るからに悪どそうな兄弟は、うさん臭そうに左之助を見た。兄は、値踏みをするように。弟は威圧するように。だが、左之助は意に介さない。今の左之助にとって大事なのは、自分が強いと証明できる何かだ。自分が納得できるその何かを得たとき、それがこの男の報酬となるのだ。
「で、俺を雇うのか?雇わねえのか?はっきりしろ」
背中に悪一文字を背負う男の両脇に、たった今手荒い歓迎を受けてたった結果が、呻き声をあげながらのた打ち回っている。
比留間喜兵衛は、その状態を鼻で笑って、弟を見た。いかにも小狡い顔の兄に対して、弟は勢いとはったりだけで生きているような男にしか見えない。

「断る理由は、ないですねぇ」

最終的に決めたのは、兄だった。
「あなたには、それなりの働きをしてもらわなけりゃ」
緋村抜刀斎を倒して、あの道場をぶんどっちゃってくださいね。
喜兵衛はいかにも悪どそうな笑みを浮かべた。
「ついでに、薫ももらっちゃいましょうかね。女郎屋に売る予定でしたが、そうそうあんないい女は見つかるもんじゃなし」
女なんて、どうでもいい、好きにしろ。左之助は踵を返して、

「伝説の人斬り、緋村抜刀斎って野郎か。腕が鳴るぜ。ま、期待してろよな」

と言い、出て行った。

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