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ウタカタノユメ

其の男②

こんばんわ。

本屋さんに行きましたら、SQの表紙の剣心を見て、も~ずっきゅんこ(笑)
ああ、やっぱ、あたし、剣心好きだわ~と、改めて思いました。
いたるところで、実写版のポスターが目に入りますね。
行きますよ。一応は。俳優陣は巧い人ばかりなので、見ごたえはあると思います。


さて、今日は「其の男②」
薫ちゃんに出会うまで、あともう少し。








実は、東京に来るのは初めてではない。十年も流れているのだ。その間には、何度かこの街を通り過ぎた。だが、来るたびに居心地の悪さを感じた。所詮、人斬りの過去を持つ身、津々浦々に己を敵と狙う者はいる。この街は、敵と狙う者と、己の過去を知りすぎている者が、他の街よりも多い気がする。昔、同志と呼び合った仲間は、時代を経てこの国を動かす側に就いている者も多い。もしもその者達に出くわしたら、自分はなんとするだろう。
「お侍さん、お侍さん」
背後から呼ばれて我に返った。
「朝ごはん、ここに置いておきますからね」
そこには襷掛けの女中が、膳を持って立っていた。
昨夜は街中にある小さな旅籠に宿をとった。本当なら、昨日中に東京を抜けたかったが、季節外れの大雨で、仕方なくとどまる羽目となってしまった。
「ああ、かたじけないでござる」
剣心は、腰の物を手に取ると、柔らかな笑みを浮かべた。
「今日は晴れて、本当に良かった」
女中は味噌汁に気を遣いながら、静かに膳を降ろした。
「お侍さんは、これからどちらへ?」
お櫃の中の麦飯を茶碗によそい、剣心へ手渡す。剣心は軽く頭を下げて、その茶碗を受け取った。湯気がもわりとあがり、麦飯独特のにおいがした。
「いやあ、当てのない旅でござるゆえ、どこに行こうか思案中でござるよ」
「じゃあ、ゆっくりしていきなさいな。どうせ連れもいないんでしょう?そうだ!今日はこの近くの芝居小屋に行ってみるといいよ。いいものが見れる」
女中は、嬉しそうに話をつづける。まるで目の前にその光景が浮かんでいるような表情だ。
「ほお?なんでござるか?」
「御台様と宮様のお出ましだそうだ」
「御台様?宮様?」
「ああ、正確には、天璋院様と静寛院の宮様。」
その名を聞いて剣心の唇が真一文字になる。
「昔じゃ考えられないけどさ、時代も変わったもんだ。こうして、時々、お二人お芝居見物をされたりするんだよ。」
女中は湯呑に茶を継ぎ足した。
「でもね、おかわいそうに。御台様は、江戸城を追われた後は、生活も厳しいって噂だよ」
あんないいひとたちなのにさ、と女中は悔しそうに唇を噛んだ。
その「いいひとたち」を、追い詰めていったのは、自分たち側だ。こんなところにも、幕末の欠片が落ちている。人斬り抜刀斎は、確かに新時代の幕開けに貢献した。だが、そのために失ったものはあまりに大きい。己の道は、本当にこれで、よかったのだろうか。流れて十年、毎日、思うことだ。だが、まだ答えは出ていない。


「ああ、宮様だよ!御台様もいらっしゃる。お綺麗だねぇ」

気が付けば、自分の行く先に、黒山の人だかりができている。天璋院と静寛院の宮が来るという芝居小屋の前だ。何も来たくてその場所に来たわけではない。目を背けたいと思う気持ちはやはり負い目があるからか。だが、反面、自分たちが落としてしまった幕末の欠片をこの目に焼き付けておきたいと思ったのも事実。どんな顔をしているのか。どんな暮らしをしているのか。聞けば、二人は今、東京の街に住み、静かに余生を過ごしているとのこと。日々の暮らしは、本当に心安らいでいるのだろうか。新しい時代は、自分たちが追い詰めてしまった人たちにも、幸せな暮らしを届けているのだろうか。

初めて見るその二人は、柔らかな笑顔で芝居小屋に入って行った。天璋院の後を歩く静寛院の宮を、時折振り向きながら、優しく見守る。ふと、桂が愛した幾松の姿と重なった。あの笑顔の裏に、どれだけ涙を流したのか。あの時代、互いに立場は違えど、この国のために動いたという事だけは真実だ。戦いが起これば勝者がいて敗者もいる。果たして自分は、追われるものの立場を、思いやったことがあっただろうか。血刀の先にある新時代など、思い上がりもいいところだ、と、もう一人の自分が囁いたような気がした。

続く

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