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ウタカタノユメ

其の男③

こんばんわ。

テレビを見てましたら、実写版の試写会が開かれたそうで、そこにフェンシングの太田選手がゲスト出演したそうですね。
フェンシングって、日本ではあまりなじみがないけれど、カッコいいですね。
でも、イマイチ、ルールがわからん。


「その男③」、今日は「オイラ」=勝先生が出てきます。アニメ版でも先生が出てきましたよね。結構好きなんですよ。勝先生。
で、今後絡ませたいなぁ、と、まだ何のストーリーも決まってないのに、そんなことを思ってみる。

では、よろしければごゆっくりお楽しみください。





「お前さん、何しにここへ来た?」

人だかりからわずかに離れたところで、背後から声をかけられた。薄々気配は感じていたが、殺気ではなかったためそのままにしておいた。その声は、ややかすれていたが、静かな口調だ。振り向けばそこには、黒の紋付を着た初老の男が立っていた。

「ご老人…失礼だが」

面識はない。だが、同じ匂いがする。この男も動乱の時代を生き抜いたのか。
「ああ、すまねえな。なんとなく、オイラとおんなじ匂いがしたんでな。何だか懐かしい気がしてよ。おまけに廃刀令無視の度胸が据わっている奴だからなぁ。ちょいと声をかけてみたくなったんだよ」
老人の目は、剣心の腰を凝視していた。
「お役人でござるか?いや、それは済まない。刀と言っても、これは、使い物にならぬ、ただの飾りのようなものでござる。」
苦笑した剣心に、老人は「役人じゃねえよ」と手を横に振る。

「その昔な、オイラのバカ弟子のひとりに、坂本っていう土佐の荒くれ者がいたんだよ。」

老人の言葉に、剣心の眉間に皺がよる。その表情を知ってか知らずか、老人はなおも話を続けた。
「あれは、確か、長州の高杉が奇兵隊を作るの作らねえのって大騒ぎしていた時だ。坂本は俺への文の中に『先生、長州に面白いガキがおるとです』と書いて寄越しやがった。まだ寝小便たれそうなガキのくせに、一丁前に抜刀術を使える。周りの大人もそりゃもうびっくりして、さすがに高杉と桂の目に留まったと、そのガキのことをこれでもか、というくらい書いていた。だが、最後に、坂本はこうも書いていたよ。『あんなガキの手を使わなければならないほど、この国は弱くなっているのか』と。」
「ご老人…もしやあなたは…」
「なあに、ジジイのひとりごとだと思って聞いてくんな。年寄ってのは話し相手が欲しいもんよ」
その男は、懐かしそうに剣心を見つめている。

「その後も、坂本は時折そのガキのことを書いて寄越した。腕を買われたガキは、ずいぶん活躍したそうだ。だが、ある日を境にそのガキのことは全くわからなくなった。どうしてかわかるか?坂本が死んだからだよ。それからオイラも身の回りが忙しくなっちまってな。ホラ、さっきの、見たろう?」
鼻で笑いながら、後ろを指さす。
「つい先だって、大久保って野郎に、そのガキのことを久しぶりに聞いたんだ。
行方知れずになったこと、頬に大きな十字傷を作っちまったこと。」
その時、老人の背後から、若い男の声がかかった。
「勝先生!こんなところで何やってんですか!御台様…じゃない、天璋院様がお待ちかねですよ!」
小さく舌打ちをした老人は、「まあ、そんなわけだ」と肩をすぼめた。
「拙者は…ただの通りすがりの流浪人でござるよ。そう…ただの。だが、一つだけ…あのお二人の行く末が、どうか幸せであるように、と。心底思うでござる」
そうか、と言って、老人は笑った。
「そのガキが今どこでどうしてるのかはオイラの知ったこっちゃねえが、ま、新しい時代を作ったことには間違いねえ。この明治という世を見ながら、何を考えているのかねぇ。
ああ、お前さん、もしもこのままこの街にいるんだったら、いつでもオイラのところに来な。お前さんとは、一度ゆっくり酒でも飲みてえな」
じゃあな、と言って老人は踵を返す。ったくもう、女ってえのは、なんで待てねえんだ、と小言を残して。


「勝…海舟。」

剣心はその名を呟く。やはりこの街は、幕末の欠片が至る所に落ちている。
天璋院と静寛院の宮の笑顔が、剣心の心に深く突き刺さっていた。


その夜。この街を離れようと明日を待たずに旅支度をして宿を出た。突然の出立に、女中は怪訝な顔をしたが、それでも腹がすくだろうと握り飯をこっそり持たせてくれた。
会津でもこの街でも、人の情けがやるせなかった。己はそれに値する人間ではないのだと、心底思うのだ。だから、やはり、この街を出よう。優しさに甘えてしまう前に。
空を見れば冬の満月。北風に吹かれて、軒下の看板がカラカラと音をたてている。
もう、ここへは来ない、と思ったその時だった。

「人斬り抜刀斎!!」

捨てたはずの名を突然呼ばれて振り向けば、視線の先には美しい少女が自分を睨み付けていた。手には竹刀、切っ先は己にまっすぐ向けられている。そして、桜色のりぼんが月夜に照らされ揺れていた。




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