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ウタカタノユメ

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其の男①

さて、「るろうに剣心二次小説」

本日よりスタートです。ボチボチUPしていきますので、よろしくお願いいたします。
まずは、剣心。東京にたどりつくまでの心境と、ちょっとしたエピソードを書いてみました。
勝先生、好きなんだよなぁ。


では、続きを読むから、どうぞ!





北の国から、まるで雪に追われるように、街道を行く。空を見上げれば、一面の雪雲。遠くに見える山も白く覆われている。
行くあても、ない。連れがいるわけでもない。誰に気兼ねすることのない、一人旅だ。
「さて、次は、どこに行こう・・・」
山道を下った所の分かれ道。古びた道しるべは、読み取るには文字がかすれて難しい。だが、「江…」という文字は紛れもなく東京を指しているのだろう。
「東京…」
ため息を一つついて、その男、緋村剣心は腰の物に軽く手を添えた。
今からおよそ十年前、幕末と言われたその時代、京都の町を震撼させた男がいた。人斬り抜刀斎と呼ばれたその男は、「新時代」という理想のもと、数多の命を奪う。血塗られた日々を過ごした男は、やがて、戦いが終結すると、その姿を消した。
何故、姿を消したのか。そのままとどまれば、今頃は政府の重鎮としてこの国を動かしていたであろうに。彼を知る者たちは、その行方を追ったが、結局は何の手がかりもないまま、時は過ぎていった。

会津の旅籠で、路銀稼ぎにひと月ほど雑用の仕事を手伝った。女中は器量は悪いが、気立ては良くて、旅立つ前の夕餉の折に、「雪よけになるよ」と笠と襟巻を渡してくれた。「なあに、亭主の使い古しだべさ」と、ニッと笑えば、欠けた前歯が顔を出した。
この土地で、こんなにも世話になるとは…この旅籠に滞在する間、剣心は何度も居心地の悪さを感じた。幕末の維新志士にとって、ここは敵地も同然。なぜなら長州と敵対していた松平容保公のお膝元であるからだ。もしも自分の素性がばれたら…世話になった旅籠の人たちに対しても、騙しているようで後ろめたさが残る。だが、幸運にも素性が知れることもなく、平穏に時は流れていった。さらには恐縮するほど過分な情けまでかけてもらい、申し訳なさで胸がいっぱいになった。
道しるべの前で、もう一度来た道を振り返ると、剣心は深々と頭を下げた。


続く


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