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ウタカタノユメ

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悪(わる)②

こんばんわ。

薬に頼ってるわけじゃありませんが、自律神経の乱れは少し治まっているようです。
薬(市販の漢方)を飲んでるときは、「効いてるの?」と思っていましたが、飲まないとてき面におかしくなるってことは、やはり自分でも知らないうちに効いてるってことなんでしょうね。
でも、最近、お昼時も調子が悪くて、昼も飲もうかなぁと考え中。
全く、こんな話で、ヤダヤダ。

で、こっちの男は、病気も怪我も吹き飛ばすヤツでして、この単細胞!と思いますが、実はけっこう繊細だったりするんですよ。悪を背負わなけりゃ、生きられなかったんでしょうね。


ということで、「悪②」、よろしければお付き合いください。





あの時代、人斬りなど珍しくはなかった。自分が師と仰いだ相良総三からも「人斬り」の存在を聞かされていたし、東京から離れた田舎町でも、風の便りに物騒な事件をいくつか聞いた。ただ、その時は、自分の全ては相良総三を中心に回っていた。人斬りの意味さえも、あまりピンときていなかったのだ。

ああ、あの男だったのか、と左之助は思い出した。牛鍋屋で楽しそうに連れと食事をしていた男の姿を思い出すにつけ、人斬り自体の定義が左之助の中で崩れそうになる。
だって、まるで女みてえじゃないか。更に言うなら、多分、自分と同じ「側」の男なのだと直感した。「長州の」という言葉が付かない限り。


普通、もっと…そう、比留間の舎弟のような、体力バカみたいな男を想像するだろう。あんな優男のどこに、京都の町が震撼したというのだ。
例えば。
連れの少女に盃が当たりそうになったのを、さりげなく、だが、周りが呆れるように自分が身代わりとなったこと。あの瞬間、一体だれが「その事実」を見ていただろう。
畜生…野郎、粋なことしやがる。
ますます「抜刀斎」という男に興味が湧く。
最強の人斬りを倒せば…あの不快な夢から解放されるだろうか。
強くなれ、という声から解放されるだろうか。
久しぶりに、アレの世話になるか。
左之助の拳に、自然と力が入った。

びゅんと風を切る音がした。斬馬刀を大きく振れば、あたりの空気が面白いように切れる。だが、これで威嚇をすれば、相手が怯む、などということは全くない。この男に限っては。いや、こんなことで怯んでもらったら、あまりに見込み違いだ。人斬り抜刀斎は、小賢しい真似など通用する男ではない。だから、本気で。死ぬ気で。腹の底から大声を出して、まっすぐに向かっていく。左之助の周りで、風が面白いように鳴っている。
「・・・わかりやすい男でござるな」
切られた風を自分の味方に付けて、剣心は更に左之助の上を行く。ひらり、ひらりとまるで剣心が風のごとくだ。しかも悔しいことに、余裕のある顔で左之助を見ている。
畜生。俺はこれでいっぱいいっぱいなのに、ヤツは息さえもあがっていない。

何度も何度も地べたに叩きつけられた。
自分の拳など赤子のようにあしらわれ、飛天の技が自分を襲う。
これではまるで…牛若丸と弁慶ではないか。
ふと戦いの最中に思ったことだ。

強くなれ、強くなれ。

弱い弱い弱い。

頭の中で、夢の中に出てくる言葉がガンガンと響いた時、思い切り殴られた。
剣ではなく、拳で。
維新志士への恨みつらみを叫ぶ左之助に、剣心は異を唱えた。
喧嘩の相手が違うのではないか?
維新はまだ終わっていない。これからなのだと。
その言葉が、師と仰ぐ相良総三と全く同じで、左之助は負けを認める以外になかったのだ。
満身創痍、大の字に倒れた左之助だったが、頭の中は妙にすっきりしていた。


ようやくの思いで帰った自分の部屋で、左之助は大の字になり天井を見ていた。
畜生、あの野郎、と言いながらも、口元が緩む。
可笑しくて、涙が出る。自分の甘さは、きっと剣心の目には滑稽に映っていたに違いない。
結局、弱い弱い、と聞こえたあの声は、誰のものでもない。自分の中に潜んでいた声だったのだ。現実に諦めた自分は、逃げ場を探す。逃げれば逃げるほど、弱さが顕わになる。
勝てるわけないのだ、こんな弱さで。弱いというのは、力ではなく、自分の心の弱さだと、初めて気づいた。

けれど、自分は自分なりに、変えられない思いがある。
相楽総三の無念を抱えたまま、これからも明治(いま)という時代を戦っていく。
師と仰ぐ今は亡き人が、理想とした世の中に変えるために。
そして、同じ思いを抱えて生きる男に知り合えたこと、これも相良総三が導いてくれた縁なのかもしれない。

全身打撲で痛みが酷い。だが、これはこれで結構居心地のいい痛みなのだ。左之助の脳裏に、総三の笑った顔が浮かぶ。
ばかたれ、今頃気づいたか、と優しい笑顔でこっちを見ている気がした。

「痛ぇなぁ…」

一筋の涙を拭くこともせず、左之助は静かに目を閉じた。悪一文字の看板を背負った「悪い男」が、相楽総三の死以来流す、久しぶりの涙だった。

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