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ウタカタノユメ

もはや、恋⑥ 

こんばんわ。

亀更新ですいません。
寒いですね。冬ですからね、あたりまえですが。それでもやっぱり寒いのは嫌だ~

さて、クリスマスですなぁ。連休はどんな予定ですか?ま、このトシになりますと、クリスマスなど、無縁の身になりますので、多分、私は家でPC三昧の時間を過ごすこととなるでしょう。悲しいやら、むなしいやら。
かつては、クリスマスに家にいることなど、ありえない!罪悪だ!くらいに思ってた私が、こんなダラケた女に成り下がろうとは~~ort

「もはや、恋」⑥UPです。
薫ちゃんのお相手は、なんとも情けない男だったようですよ(笑)さて、どんな展開になりますやら。
では、どうぞ、よろしければお立ち寄りください。




前川家に着いたときには、すでに相手は部屋に通され、前川師範と談笑をしているところだった。時間に遅れたつもりはないが、待たせてしまったことに間違いはない。障子を開け、その場で三つ指をつき、深々と頭を下げ、その非礼を詫びた。
顔をあげて、初めてその男の顔を見た。病にかかっているような、青白い顔だった。薫の顔を見て、相手は慇懃に頭を下げたが、表情は弱々しい。

前川夫人が、一通り互いの紹介をした。だが、薫の耳には全く言葉として入ってこなかった。ただ俯いているだけの薫を、「初心」と勘違いしてくれたのはありがたかった。申し訳ないと思いながらも、この縁談、最初から断る気でいるのだから、頭に入ってこないのも無理ないというものだ。
男の傍には、母親が座っていた。姿勢をまっすぐに伸ばしたその姿は、いかにも武家出身の女性であることがわかる。
母親はあまり喋らず、ただひたすら薫を見ていた。

「では、後はお若い方で、お散歩などしていらっしゃいな。道場の脇に、美しい花がたくさん咲いていましてよ」

見合いが始まってから、どの位経っただろうか。前川夫人の言葉で、我に返った。

「薫さん、恥ずかしいのはわかるけれど、もう少しお話した方がよくってよ?お頑張りあそばせ」

家を出るとき、夫人がそっと耳打ちをした。
頑張れと言われても、そんな気になれるはずもない。それに、恥ずかしいわけじゃない。ただ一言、つまらないだけだ。

早く家に帰りたい。

湯屋に行って、疲れを取りたい。
弥彦はちゃんと稽古をしたかしら。
今夜の夕飯は何だろう。…剣心、今頃、何をしているだろう。
あれこれ考えていたら、時間が経ってしまった。途中、何か問われたようだが、適当に返事をしたことだけは覚えている。

「薫さん、僕の妻になるんですか?」

唐突に聞かれて、言葉に詰まった。
青い顔をした男は、薫よりはるかに背が高い。それがかえって、その男の印象を気弱なものにしている。
「あの…まだ、そういうわけじゃ…」
そうですか、と言って、男は笑った。笑うと意外に優しい顔になる、と思った。
二人はしばらく他愛もないことを話していたが、突然男は真剣な眼差しで薫を見た。

「薫さん、お願いです。僕と結婚してください!」
「え?え?えええええーーーーーっっ???」

一瞬、男の言葉を聞き間違えたと思ったが、真剣に懇願する顔を見て、現実のものだと思い直した。
「ちょ、ちょっと待ってください!私、まだあなたのこと何もわかってませんし…」
「いいんです!そんなこと。それよりも僕は、あなたと結婚しないと母から何をされるかわかったもんじゃないんです!」

母…先ほど見合いの席で、薫のことを品定めするような目で見ていた女性である。なるほど、気位が高そうで、扱いにくい女性のようだ。
それにしても、何を差し迫ってこんな懇願をするのか?結婚はもっと互いのことをじっくり思い、よく考えるはずではないのか。

「何かあったんですか?お母さんと…」

他人の家のことに首をつっこむのもいささか気が引けたが、考えてみれば薫もこの見合いの当事者である。当然、聞く権利はある。

「僕は母には逆らえないんです。だって、母は我が家で一番賢い人だから。実は父も母には頭があがらないんです。兄だって…僕はもうこんな生活は嫌だ。母から逃げるためにも、どうか、薫さん、僕を助けると思って、僕を神谷家の婿にしてください。婿にしてくれるなら、なんだってやります!掃除でも風呂焚きでも。それに、僕だって、腕に多少の覚えがある。神谷活心流を盛り上げる一役を買いますよ」

一気に喋る男の話を聞いていたら、次第に腹がたってきた。
母親が怖くて、逃げるために結婚する、だと?
神谷活心流を盛り上げる、だと?
自然、薫の握り拳がぷるぷると震え出した。

「ああ、だから、僕を助けると思って、どうか、薫さん、僕の妻に、いや、あなたの婿にしてください!」

なんという求婚の言葉か…
なんという屈辱か…
「こんの、ばかたれが!!!」

思わず、口と同時に手が出ていた。しかも、握りこぶしだ。ぼか、と鈍い音がして、男はそのまま勢いよく後ろへ転がった。
「冗談じゃない!自分が逃げるために結婚したいだなんて、あなた、自分の人生をなんだと思っているんですか!?結婚なんてそんなもんじゃないでしょう?それに、腕に覚えがあるから神谷活心流を盛り立てるですって?バカにするんじゃないわよ!神谷活心流は亡き父越次郎が心血注いだ流派よ。手前勝手な理由で、神聖な道場に関わって欲しくないわ!!
あなた、逃げてばっかりじゃない!どうしてそうやって自分の目の前にあることから逃げてるのよ!!なぜ、もっと自分の人生と向き合おうとしないのよ!私の知っている人はね…」
そこまで言いかけて、薫は次の言葉を探した。

「…私の知っている人は…」

剣心…と心の奥で叫んでいた。こんなときも、剣心のことが頭を離れない。
「薫…さん?」
男は転んだ態勢のまま、薫を見ている。
「私の知っている人は…自分のことよりもいつも他人の幸せを考える人なの。どんな辛いめに遭っても、どれだけ傷つこうと、いつも目の前の幸せを守るために生きている人なのよ。あなたみたいに、逃げてなんかいないわ。」
「薫さん…」
「もう、これでいいでしょう?お見合いは終わったわ。あなたはこのまま前川先生の所にお戻りなさいよ。そして、『神谷薫は暴力を振るうとんでもない女でした』って伝えれば、お母様も納得してくださるはずよ。そうして、素敵な女性を一日も早く探しなさいね。でも、もう、逃げちゃダメよ?」
殴っちゃって、ごめんなさい。薫は頭を下げると、踵を返した。

後で、前川夫人から、きつくお叱りを受けるだろう。いや、それどころか、前川道場への出入りを、金輪際禁止されるかもしれない。だが、それでもいいと思った。握り締めた拳は、少しだけじんじんとしていたが、心は何故か晴れやかだった。

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