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ウタカタノユメ

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もはや、恋④

こんばんわ。

三連休もあっという間に終わってしまいましたね。
どうして、こう、楽しい時間と言うのは短く感じてしまうんでしょうね。明日からまた新たな一週間が始まります。とにかく、気持ちも新たに、頑張りましょう。


さて、「もはや、恋」も今日で4回目です。なんか、ここのサイトは細々と、という感じで運営しているんですが、結構楽しいんですよ。
今回は、剣心が自分の恋する気持ちに、びっくりしちゃうといいますか、「あれ、なんだ、この感情」と、意識し始めるお話なんですね。これがなければ薫ちゃんと祝言あげるなんてことはなかったわけで、初めの一歩といったところでしょうか。もちろん、オリジナルなんですが、
そうそう神谷道場に物騒なエピソードなど続くわけないんだし、こんなほのぼの系もいいかな、と思います。まあ、とにかく、剣心、苛めます。ほれ、慌てろ~薫ちゃんがほかの男のものになってもいいのか~!?

というわけで、第4話、始まりでございます。







「とにかく、会ってからお決めなさい。誰しも最初は臆病になるものですよ。将来のことを決めるのですもの。慎重になるのは当然ですよ」


目の前でかしこまる薫に、前川夫人は諭すように、だが、どことなく押し付けるように言った。
縁談話を断ろうと訪ねたはずが、結局は夫人の勢いに逆らえない。昔から、この夫人の前では、いつも萎縮してしまうのだ。
お相手は、隣町の道場の次男、なかなか素敵な殿方なの、と、夫人は目を細めて言った。あなたにぴったりなのよ、と夫人は付け加える。

私の隣に座る人。
私にぴったりの人。

そんな人がいるのだろうか。
薫はその様を想像した。だが、まだ見ぬ男の顔など、到底浮かんでくるはずもなく、やはり隣に座る男の顔は、何度想像しても赤毛の居候だ。

やだ…そんなことあるわけないじゃない…

剣心が、自分の隣で自分と同じ人生を歩むなど、あるはずもない。けれどどうしても他の男など考えられない。

私、やっぱり、剣心のこと、好きなんだ…

片思いの切なさに、薫はため息と共にうなだれた。


この世で一番厄介なのは、自覚のない男だ。
相良左之助は、隣で書物に目を通す赤い髪の男を横目で見た。
縁側での昼下がり。道場からは、薫と弥彦の掛け合いの声が聞こえてくる。
左之助は、ぼさぼさのトリ頭をさらに両手で掻き、ふう、と大きくため息ををついた。

「よお、剣心。それ、逆さまじゃねえか?」

両手を板の間につき、口から魚の骨を出し、長い足を所在無さげにぶらぶらと動かしている。だが、その目はしっかりと剣心の姿をとらえていた。
左之助に呼ばれて、初めて「ん?」と顔をあげた。
「逆さま?」
と呟いて、手元の書物を見れば、なるほど左之助の言うとおり、それ自体が逆さまにひっくり返っていた。
「おろ?」
信じられない、と言うような顔で、書物と左之助の顔を交互に見ている。
「それからさ、焦げ臭せえ…」
「ん?焦げ臭い?」
と言ったところで、いかん!と声を出した。台所から焼け焦げた匂いが漂ってきた。

「拙者としたことが…」

どたどたと大きな足音が奥へ消えていった。左之助は、剣心の後姿を見届けた後、くくく、と笑った。

「わかりやすい男だな…あの朴念仁め」

左之助が弥彦から薫の縁談を聞いた後、左之助の心の中で、意地悪な虫が動き出した。
「朴念仁をからかうと、面白い」
さて、どうやっていじめてやろうか。
トリ頭の親友は、こんなときでも容赦ない。本人も気付いていない胸の奥底に、確実に芽生え始めている恋心。少し刺激を与えてやっても罪はないだろう。
剣心にどんな過去があったかは、詳しくは知らない。知る気も起こらない。
だが、ここでの暮らしが剣心を幸せにしているのなら、喜ばしいことだ。不器用な朴念仁の幸せを願って止まない心優しいトリ頭は、臆病な恋に悩む男の姿を想像して、口元を緩めた。


薫のため息が更に多くなったのは、いよいよ見合いの日が近づいたからだ。前川夫人曰く、
「三日後、拙宅で」
とのこと。そんな急に、と文句を言っても通じる相手ではない。
陽が傾き始めたその日、縁側に腰をかけ肩を落として考え込む。
「おろ?どうしたでござるか?」
背後から声をかけられた。突然のことで、一瞬、身をすくめた。
「なんでもない」
か細い声で、答えた。小さな声だったからか、剣心は「ん?」と聞きなおした。
いいの、放っておいて。片思いの相手に、見合いの話しなんてしたくない。
心の中でそう叫ぶ。けれど、声にならない恋心。
「剣心…剣心がここに来て、何ヶ月になる?」
「ん…そうでござるな。かれこれ、二ヶ月…」
そう。まだ二ヶ月なのだ。二ヶ月で思いが通じるはずもない。他人様が噂するほど、色っぽい関係ではないのだ。
「ね…ここの暮らしは、楽しい?」
「ああ、楽しいでござるよ」
「嫌じゃない?」
「嫌なわけない」
「それじゃあ…」
と言いかけて、言葉を飲み込んだ。

…ずっと…ずっと…そばにいてくれますか?

それだけは言ってはいけない言葉。この言葉が、彼の枷になってはいけないのだから。
「どうしたでござるか?いつもの薫殿らしくない。」
「…そうね。本当に、そうね。いつもの私じゃないわよね。」
そう。いつも彼の目に映っている自分の姿は、色恋など無縁な、元気のいいお転婆娘なのだ。
「大丈夫よ?さあ、そろそろ夕飯ね?手伝うわ」
薫は笑顔を見せながら、その場に立ち上がった。だが、その瞬間、足元を取られてふらりと体が大きく揺れた。

「危ない!」

剣心が素早く身体を支えれば、これでもかというほど二人の顔が近づいた。

「やだ、ごめんなさい…」

耳まで赤くなったのがわかる。それを見られたくなくて、咄嗟に身体を離した。
恥ずかしさのあまり剣心の顔を見ることもままならず、薫は逃げるように道場へ駆けて行った。



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