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ウタカタノユメ

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もはや、恋③

こんばんわ。
今日のカテキン地方は、朝から雨が降り続いています。
夕方にはものすごい強い風。
台風がきたかと思うほどの強風でした。

そんな中、いつもお手伝いさせてもらっている親子ボランティアに、今回も参加。今日は、「お外でお買い物」でした。
お金の使い方を覚える、という体験です。もちろん、上限1000円、おもちゃは買わない。お昼ごはんを食べる、という条件付きですが、子どもたちは大喜びでした。
オトナも結構楽しんでるんですよ。

さて、「もはや、恋」今日は三回目。いよいよ薫のお見合いが本腰になってきました。
前川夫人みたいな人、周りにいたら面倒くさいだろうな~(笑)






このところため息ばかりの日が続く。薫の思いに反応してか、弥生の空も灰色だ。時折、薫を心配して、剣心が訝しげに見ている。その視線に愛想笑いを返すも、すぐにまたため息をつく。

「おい。恋患いでもしたか?」
あまりのため息の多さに、弥彦が容赦ない言葉を投げつけた。

「うるさいわね。大きなお世話よ!」
と言いつつも、その言葉があまりに的を得て、だからこそつい大声を出してしまった。

恋患い…

薫は自分の胸に手をあてた。心臓が早鐘のように鳴っている。
前川夫人の言い出した縁談話が、ひた隠しにしていた自分の気持ちを掘り起こしてしまった。まずい。この気持ち、絶対に気付かれてはいけない。ずっと胸にしまっていた思いを、あの男にだけは気付かせてはいけない。

だって、せっかくここにとどまってくれたのだもの。

もう寂しい思いはしたくない。剣心がいなくなるくらいなら、この気持ちを墓場まで持っていく。
前川夫人には、明日、ちゃんと断ろう、と決心した。剣心と恋仲になることなど期待していないが、こんな気持ちで見合いなどしても、どうせ上手くはいくまい。それに相手にも失礼だ。あることないこと、理由をつけて、またの機会にお願いいたします、と丁寧に頭を下げてこよう。
「さあ!稽古、開始!弥彦~!!始めるわよ~?」
一度踏ん切りがついたら、そこは根っからの楽天家。恋患いなどなかったかのように、薫はいつもの勢いで大声を出した。


「なあ、剣心。薫のヤツ最近おかしいと思わないか?」

稽古を終えた弥彦が、ひしゃくで水を一気に飲み干し、ぷはー、と息を噴出した。鼻の頭に汗がうっすらと浮かんでいる。この道場に来てからというもの、より強くなりたいと、稽古は一日も休んだことはない。最初はやけくそに思えた稽古も、日を追うごとに真剣身を増してくる。そんな姿に、稀代の剣客は嬉しそうに目を細めている。
その弥彦が、おかしい、と訝しがるのも無理はない。このところ、薫の口から漏れるのは、大きな声か、ため息かのどちらかだ。
死にそうな顔をしてため息をついたかと思えば、突然、拳を握り大声を出す。まるで自分の心に発破をかけるようだ。
その原因を「心当たりがある」と、大人びた口調で剣心に耳打ちした。

「縁談…?」

思わず言葉が口をついて出た。剣心の脳裏に、何故か先だって声を掛けてきた魚屋の女房の顔が浮かんだ。
「薫殿…の縁談でござるか?」
おうよ、と得意気に鼻を鳴らし、にやりと笑った。
「前川のばあさんが、こないだ師範と話しているのを聞いちまったんだ。」

弥彦が一人、前川道場を訪れたのは、二三日前のことだ。到来物の最中をお裾分けに、と薫が持たせた。薫にしてみれば、縁談を円滑に断るための策の一つだったが、そんな魂胆を弥彦は知る由もない。面倒臭え、と文句を言いながらも、結局は風呂敷に包んだ最中を届けたのだ。
たまたま玄関が開いておらず、仕方なしに庭から入った。縁側に沿った日当たりの良い部屋から、障子越しに夫人の声が聞こえた。

「ですから、この方でよろしいじゃありませんか。薫さんにはぴったりのお方ですわ。御次男さんでいらっしゃるし、剣の腕もそこそこいけるのでございましょう?薫さんはああいうご気性ですから、おとなしい方をと思っていたところなのです」

いくら子供だと言っても、弥彦はその辺の子供よりずっと生意気だ。いわゆる大人の事情も素早く察知する。弥彦は息を殺して、耳を傾けた。
「だが、肝心の薫君はどうなんだ?どうも乗り気でないように…」
そこまで言って、夫人の言葉に掻き消された。
「そんなことを言っていては、ますます嫁き遅れます!おなごは早くいい伴侶をみつけるべしと仰ったのは、あなたでございましょう?」
夫人の苛立つ声に、弥彦までがつられて肩をすくめた。
「とにかく!このお話、進めさせていただきます。よろしいですね?」
夫人は障子を開けると、「ああ、忙しい」とひとりごちながら奥の間へ向かった。
結局、渡しそびれた到来物は、あっという間に弥彦の腹に収まり、さらには何やら面白い情報まで耳にすることが出来た。十一歳の少年は、まるで全てを知り尽くしたかのように、小鼻をひくつかせた。

縁談。
考えてみれば薫も十七だ。決して遅くないこの縁を、剣心は大切にしてやらねば、と思っていた。そしてこの話がまとまれば、薫も伴侶を得て落ち着けるだろう。自分の役目もそれで終わる。そうしたら…
――再び、流れればいい
弥彦が去った庭先で、剣心は一人ごちた。だが、それがかえって自分の心を裸にしてしまった。
再び…流れるのか。
そう思った瞬間、素直に寂しい、と思ってしまった。平気だと思っていたのに、いざ口に出すと寂しさが募った。一体、いつの間に、そんな感情が芽生えたのだろう。剣心は眉間に皺を寄せた。自分の体の中に、自分ではない何かが入り込んでしまったような違和感だ。
――なんだ…これは…
今までに経験したことのないような妙な感覚に、どう対処したらよいのかわからず、剣心はしきりに首を傾げていた。


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