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ウタカタノユメ

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もはや、恋①

こんにちわ。

何やら「るろうに剣心」の実写版ブルーレイ(?←よくわかっていない)が年内中に出るそうですね。なんと、アテクシ、今年年末、そのブルーレイとやらの機械を買うことになったんざんすよ。テレビも新しいの、買っちゃうの。
懐、かなり寒くなりそうですが、ボーナスあてこんで、買います。

さて、旧作「もはや、恋」をここでUPします。剣心が神谷道場に来て、まだ2か月になるかならない、春浅い頃のこと。薫の見合い話が出たことで、剣心の心に少しの変化が表われます。
しばらく、このお話、続きますので、よろしければお付き合いを。
以前、読んだ方は、「ああ、懐かしい」と、思っていただければ、幸い。



このところ、少しずつ温かな日差しが差し込むようになってきた。春は名のみの、と言うが、着実にこの道場界隈にも、春はやってきているようだ。
緋村剣心が、この街に流れ着いたのは、わずか二ヶ月前のこと。吐く息も白い真冬の事だった。わずか二ヶ月の間に、いろいろなことがあった。出来るだけ世間と関わらないようにしてきた男にとって、この街の暮らしは何だかむずがゆいような、自分ではないような、それでいて、どことなく照れくさいような、不思議な気持ちにさせてくれる。人を疑うことを知らない純真無垢な少女と、生意気盛りの小童との奇妙な共同生活は、まんざら悪いものでもない。

「剣心。今日、前川先生のところの出稽古に伺うの。少し遅くなるかもしれないから、先に夕飯済ませておいてね。」

朝稽古を終え、頬を紅潮させたこの道場の主は、手ぬぐいで首筋を拭きながら言った。朝は弱いくせに、道場に入った途端、背筋が伸び真剣な眼差しとなる。十七とは思えないほど大人びた表情だ。着物姿の時に見せる少女らしいはにかんだ微笑は消え、凛としたその姿は、出稽古先の門下生からも尊敬と憧憬の眼差しで見られていた。

前川道場は、薫の亡父の古き友人で、この界隈でも有数の道場である。明治になり、既に刀など無用の長物とされているが、武士の精神だけは忘れてはならぬと、未だ多くの弟子がこの道場に出入りしていた。そこへ、紅一点の薫が入る。女のくせに、と始めのうちはたかをくくっていた弟子も、次第に薫の強さと美しさに引き込まれ、今では薫目当てで稽古に来るものも多い。そんな様子を見るにつけ、当主の前川が苦笑する。

「ここに来て下さるはいいが、どうも連中が浮ついて困る。」
「はい?どういうことでしょう」
「いや、気付いておらなんだか。なれば言うこともあるまいが。」
前川の歯切れの悪い物言いに、薫は解せぬ顔を見せた。
「わたくしが、何か…?」
自分に非があると思ったのか、薫の眉間に皺が寄った。
「あなた、そんなこと言っては薫さんがお可哀想でございますよ」
二人の間に割って入ったのは、前川の妻女だ。お疲れ様、と労いの言葉をかけながら、温めの白湯を薫に出した。

「薫さん、前川は、あなたが美しすぎる、と言っているのですよ」

突然の言葉に、薫は目を丸くして二人の顔を見ている。
「それはそうでしょう。この男ばかりの道場に、剣術小町と評判が高いあなたが稽古に来ているのですもの。若い門下生がそわそわするのも当然のこと。つまりそれだけ、あなたが美しいからなのですよ」
思いもかけない夫人の言葉に、薫はただ驚くばかりだ。今まで、そんなこと考えたこともなかった。それどころか、自分は同じ年頃の娘と比べて、なんと見劣りすることか、と思っていた。いつも汗まみれで、化粧っ気もない。粗雑で料理一つ満足に出来ない。そんな自分を、美しい、という人がいる。

「特にここ最近、さらにお美しくなられました。」

まるでわが子を見るような目で、夫人は薫を見ていた。前川夫妻には、跡継ぎはいるものの、娘はいない。それゆえ、薫は娘のように思えるのだ。
「そ、そんなことありません。相変わらず何も…恥ずかしながら、料理一つ満足に出来ないんです」
夫人の視線に耐えかねた薫は、いたたまれなくなり俯いたままだ。
「そろそろ、お年頃でもありますわね。」
「そうじゃの。亡き越次郎も、あの世で心配しておろう。おなごは早ういい伴侶を見つけ、子を産むが一番の幸せ。薫君、誰かいい人はおらぬのか?」
前川の言葉に、夫人も薫の顔を覗き込む。薫は思い切り首を横に振った。その様が、あまりに初心で、夫婦は嬉しそうに顔を見合わせた。
「それならば、話は早い。薫さん、あなたに合う、いい殿方をわたくしたちがお探しいたしますわね」
「え?え!?」
「大体から、今の生活がおかしいのです。」
夫人はまるで説教でもするように、体を薫に向ける。
「道場の居候…そう、何と言ったかしら。ひ…ひむ…」
「緋村剣心…です」
薫は小さな声でその名を口にした。
「若い男女が一つ屋根の下で暮らすと言うことが、どれほど世間の好奇の目にさらされているか。」
夫人の言葉に、薫は顔を赤らめた。何もやましいことはしていないが、確かに夫人の言うことは的を得ている。それでも剣心の名誉を守るため、薫は訴えた。
「あの、そんな変な関係ではありません。弥彦だっているし」
「子供一人いようが、そんなことは関係ありません。要するに、人の口に戸は立てられない、ということなのです」
有無をも言わさぬ夫人の物言いに、さすがの薫も助けを求めるように前川を見た。
「まあまあ、そこまで言わんでも。緋村君はあれでなかなか奥の深い男だと、わしは思うておるが」
前川は以前、出稽古に同行した剣心と顔をあわせている。そのときの剣心の瞳が忘れられない。飄々としている風で、実は真実をしっかりと見据えられる。今時の若い者にしては珍しい、と感じた。江戸二十傑の一人と言われる、前川だからこそ感じたのだ。

「わしはてっきり、薫くんは…」

と言いかけたが、夫人の不満そうな顔を見て、慌てて咳払いをした。 

「だが、何はともあれ、縁談は早いがいいに決まっている。本来ならば、我が息子を、と思うておったが、既に縁談が決まっておっての。薫君に意中の人がいないのならば、とにかく、悪いようにはせぬ。薫君は安心して待っているがよい」
慌てふためく薫の姿が、夫婦には照れ、と映ったようだ。薫の言葉を適当にいなした夫人は、「善は急げともうします。さて、忙しくなりましょう」と立ち上がった。


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