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ウタカタノユメ

もはや、恋②

こんばんわ。

少しずつ寒さが増してきましたね。
気付けばもう11月も半ば。こんな感じで時間はどんどん過ぎて、1年なんてあっという間に過ぎてしまうんでしょうね~ああ、、またトシをとる。

「もはや、恋」今日は2回目。お互い、少しずつ意識をし始めた(どちらかと言えば、薫の方が意識してますが)ところ。朴念仁もいい加減にせえ、と言いたいところですね。

魚屋の件は、自分でも好きなシーンです。この会話が無ければ、剣心は己の気持ちや立場に気付かなかった(もしくは、気付かなかったふりを続けた??)かもしれません。
グッジョブ!魚屋!


それでは、よろしければお付き合い下さい。




太陽が沈み、一番星が大きく空に輝いている。風は随分温かくなり、もう襟巻きも必要ないほどだ。
遅くなると言って出かけた薫だが、やはり気になる。夕飯の支度を早々に済ませ、剣心の足は自然、前川道場に向かった。
この街に来て、二ヶ月。知り合いも増えた。一人流れていた頃に比べれば、随分と笑うようになった。薫と弥彦の喧嘩も、左之助の図々しさも、今の剣心にとっては当たり前のようになっている。当たり前の暮らしを、当たり前に受け入れている自分が、不思議に思えた。

「あら、緋村さん。こんばんは。おでかけですか?」

ふいに声を掛けられて、声の主を見れば、顔見知りの魚屋の女房が懐っこい笑顔でこちらを見ている。
「おお、これは、魚屋の…」
「今日は薫先生はいらっしゃらないんですか?」
湯屋に行く途中なのだろう、両手で桶を持った女は、まるで覗き込むように薫の姿を探した。
「薫殿は、前川道場でござる。帰りが遅いゆえ、今から迎えに行こうと思っていたでござるよ」
「あら、そうなんですか」
女房は、ふうん、と言った顔で剣心をまじまじと見た。

「で、どうなんですか?」
「おろ?」

唐突な質問に、剣心の首が傾く。

「やですよぉ。しらばっくれちゃって。」

女房は、剣心に詰め寄り、意味深な笑みを浮かべた。
「ちゃんと祝言はあげるんでしょうね?そんときは、うちの魚、よろしくお願いしますよ?飛び切り上等な鯛を用意しますからね」
突然の問いかけに、しばし何事なのかを考えた。祝言…さて、誰と誰が夫婦になるのだ、と。

「それは…いつのことでござるか?」
「そんなのあたしに聞いたってしりませんよ。緋村さんたち二人が決めることでしょうに。」

女房の呆れた顔で、自分の問いがおかしかったことに気付いた。

「拙者…のことでござるか?」
「緋村さんじゃなくて、他に誰がいるんですか?薫先生との祝言ですよ。ここら界隈じゃ、いつだいつだ、って皆気にしてますよ?」

剣心は言葉を失った。自分の知らぬところで、めでたい話が進んでいる。たった二ヶ月前に来ただけというのに、世間では二人の関係をただならぬ仲、と勘違いしているらしい。

「いや、それは誤解でござ…」

そう言おうとして、ふと気付いた。そうだ。それが世間では当たり前の見方なのだ。一つ屋根の下で、男と女が暮らす。誰が考えても『なさぬ仲』と思うのは当然だ。
まずい、と思った。薫のひたむきさと、人を疑うことを知らないその性格に、どことなく温かなものを感じた。あまりに素直で危なっかしくて、一人にしておけないと同情したことが、かえって仇となったか。嫁入り前の娘に、悪い噂がついて回ることだけは防がねばならぬ。
女房は、もともとせっかちな性格なのか、さんざん自分の言いたいことだけ言うと、おお、冷えてきた、と身体を縮ませ、湯屋へと行ってしまった。
剣心はしばらくその場で考え込んでいたが、大きなため息をひとつついた後、再び薫を迎えに、前川道場へ向かった。

いつもなら空腹の腹を押さえつつも、疲れた顔など見せずそこそこ元気に歩く薫が、この日に限ってその歩みは重い。疲れきった表情で道具を肩に下げ、やや俯き加減で歩く。その理由は、前川の妻女だ。

「あなたに好いたお人がいないなら、早速良い人を探しましょう」

時として、あの前川をやりこめるほどの強さだ。薫など太刀打ちで来るはずもなく、結局は押し切られた形で縁談話が進むこととなってしまった。
好きな人…いないわけではない。相手は勿論、赤毛の居候だ。だが、そんなことは言えるはずもない。言ったら最後、何と非難されるかわかったものではない。そうでなくとも、『居候』という立場が、前川夫人には理解できないようだ。

「どうしよう…」

無意識に立ち止まって、空を見上げた。薄闇の空に、一番星が大きく輝いていた。

「何が、どうしよう、でござるか?」

不意に背中から聞こえた声に振り向けば、そこには居候が困ったような顔でこちらを見ている。
「剣心!」
と言ったその後で、思わず赤面した。好いた人、という言葉が頭を過ぎったからだ。
「遅いから心配したでござるよ。何かあったでござるか?」
あったなんてもんじゃない…けれど、そんなことここで言えるはずもない。薫は赤い顔を俯かせながら首を横に振った。
「腹がすいたであろう。早く帰るでござるよ」
後ろを歩く薫を気にしつつも、剣心はいつもと変わらぬ歩調で歩いている。
今日の稽古はどうでござったか、夕飯の菜は魚の煮物でござる、と話し続ける剣心に、薫は適当に相槌を打っていた。無論、話など心に残るはずもない。前川夫人が持ってくる縁談の話し。それを思うと、自然に気鬱にもなる。道場へ向かう道すがら、このまま消えてしまいたい、と思う薫であった。

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