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ウタカタノユメ

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かなりや~明日③~

基本、読む小説はほとんど時代小説です。先日からはまっている佐伯泰英先生の「居眠り磐音」シリーズは、相変わらずその熱が冷めず、現在22巻を爆走中(笑)どうも主役二人のイチャコラシーンが多いと、読むスピードも増すみたい。
男性作家と女性作家。私の場合は女性作家の方が多いですね。
女性作家の表現の方が、情念が出ていて、ぞくぞくします(笑)同じイチャコラシーンでも、男性作家はあっさり系なのかな。その代り、殺陣シーンでは男性作家の方が迫力があります。しかも描写が細かい。
磐音シリーズにはまったのは、入院中1巻~2巻を読んだことからでしたが、退院後DVDに流れてそれからドドドド~と嵌まったので、やっぱり映像の力が大きいと思います。るろに通じるところもあり(主役の男の過去に暗い影、みたいな)ますます魅かれて言ったのだと思います。原作は結構あっさりした表現が多いんで、映像の美しさ(特にコージ君の横顔の完璧なまでの美しさ)にため息が出るほど。もう何回リピートしたことか(笑)
そんなわけで、るろに通じるこのシリーズ、まだまだ先は長いです。

では、「かなりや~明日③~」
恵さんの恋ごころは、報われないとわかっているだけに、やっぱり辛い。でも、彼女には「凛として生きて欲しい」と思っているのです。





病室に案内され、寝台に横たわる剣心を見たとき、一瞬血の気がひいた。もっと顔を歪ませ、苦しんでいるのかと思ったら、想像に反して静かに寝息を立てている。
まるで死に顔のようだと思った。思いのほか静かな状態が、返って恵を不安にした。自然にごくりと喉が動いた。

―――剣さん…

本当は駆け寄って、その手を握り締めたかったが、薫の手前、躊躇した。
こんな事を考えるのは不謹慎だと思うが、剣心を心配する反面、薫を羨ましいと思った。

―――共に戦うことが出来る幸せ。共に痛みを分かち合える幸せ。

薫だけが許された戦い。できればこの命を捨ててでも、共に傍で戦いたかった。

何故…何故…私ではないのだろう。

青白い顔で眠る剣心を見つめながら、恵は唇を噛む。

―――未練だわね…

恵は目を閉じ、軽く首を横に振った。



担当医師と協同で、医師団の必死な治療が続いた。その甲斐あって、ようやく先行きが見えてきた。薫は安堵し、何度も恵たちに頭を下げた。

「でも、まだまだよ。とりあえず危機は脱したけど、油断大敵なんだからね」

そう注意を促しながらも、恵の表情にもいくらかの余裕が伺えた。

――そうよ、死なせはしない。意地でも死なせるもんですか。

部屋を出て行く薫の後姿を見送りながら、恵は改めて思う。


医者としての意地なのか…
それとも、女としての意地なのか…


多分、どちらも、だと思った。医者としての道をまっとうすることが、剣心への愛の形でもあり、薫に対するほんのささやかな対抗心なのだ。
薫の去った後、消毒薬の染み込んだ部屋で、恵は一度大きく伸びをした。明け放たれた窓から、湿気を含んだ風が吹き込む。気分転換に外を眺めれば、裏通りから金魚売りの甲高い声が響くのが聞こえた。


このところ、雨が降らない。一雨降ってくれれば暑さも凌げるだろうに、太陽は毎日容赦なく京都の町を照らし続けていた。噂には聞いていたが、京都がまさかこれほど暑いとは思ってもみなかった。
昼間の熱気を残したまま、夕暮れを迎え、気がつけば空には月が昇っている。一頃より日が暮れるのが早くなった、と恵は空を見て思った。

提灯の灯りだけを頼りに、恵は宿舎にしている病院を抜け出し、一人夜道を歩いている。
夏特有の澱んだ空気の中、少し急ぎ足で歩けば、あっという間に汗が流れた。
夜道の一人歩きは危ない、とわかってはいたが、恵にはどうしてもやらなければならないことがあった。それは京都に来た次の日から、毎夜続けていることだ。
さわさわと夜風が吹き、恵の髪がなびく。右手でそれを押さえ、目の前に建つ鳥居を見上げた。

「私が剣さんにしてあげられることは、何だってやる」

そう思って始めたお百度参り。着物の袷に忍ばせた、小さなこよりを手に持ち、鳥居をくぐった。
砂利の上に素足をのせれば、冷やりと冷たい感触が、足の裏全体を覆う。夜の闇の中、そばに置いた提灯の灯りと、月明かりだけが足元を辛うじて照らしていた。

医者が神仏にすがり命乞いをするのは、滑稽だろうか。

人の生き死には、医者ではどうしようもないときもある。今、目の前に起こっていること。それだけが事実であり真実なのだ、と、今までの経験が教えてくれた。
どれほど手を尽くしても、どれほど技術が発展しても、人間の寿命にはあがなうことは出来ない。だから、どんな悲しい結末がその先にあろうが、今まで泣いたことがなかった。
しかし、今回ばかりは状況が違った。剣心重傷の報を聞き、冷静でいられない自分を何度も戒め、それでもまだ心が揺さぶられる日々が続いている。そして、挙句の果てに、
「お百度参り」だ。
その夜、最後のお参りを終えた恵は、砂利で汚れた素足を手拭いで拭うと、大きなため息を一つついた後、月を見上げた。

「随分、ご熱心だな」

突然の闇夜の中で声をかけられ、一瞬恵は身構えた。だが、地面に移る影を見て、恵は安堵の息を漏らした。

「何よ。着いてきたの?トリ頭」

恵に呼ばれた左之助が、腕組みしながら姿を現した。手には痛々しいほどの包帯が、何重にも巻かれている。
「着いて来た訳じゃねえよ。自惚れるな」
左之助は鼻で笑った。
「おめえなんか襲うヤツもいるめえが、こんな夜中に物騒なことしてるんじゃねえよ」
「ご心配なく。私は大丈夫よ。」
恵は左之助の顔を見ずに、もう一度素足を手ぬぐいで拭った後、草履に足を通した。
「さ、終わった終わった。邪魔者が来たから、かーえろ」
ツン、と顎を出し、プイっと横を向いた。後ろから「チッ」と舌打ちが聞こえた。

「アイツの為か?」

左之助の問に、足が止まった。

「…だったら、どうなのよ」
「アイツの為なら、諦めな。剣心の心の中は、嬢ちゃ…」
「わかってるわよ」

恵の言葉が、左之助の言葉を飲み込んだ。睨むような瞳で左之助を見たが、再び顔を背けた。その後姿がうな垂れているように思えて、左之助は気まずい表情を浮かべた。

「…そんなこと、百も承知よ。」
「だったら、何故…」
「これが私のやりかただからよ。今更剣さんをどうしようなんて、思っちゃないわ。ただ、私は私の方法で、剣さんを支えていきたいの。幸せになって欲しいのよ」
「それが、これか…」

左之助は目の前に建つ神社を改めて見た。暗がりではっきりとは見えないが、かなり歴史のある建物なのだろう。

「女ってのは、わかんねえな。」

ため息混じりに左之助が言う。

「それはあんたがまだお子ちゃまだからよ」

恵は振り向きざまに言って、意地悪な視線を投げつけた。
「帰るわよ。あんた、ここまで来たんだから、当然送って行ってくれるんでしょうね?」
「はぁッ?なんだ、それ?」
「私が襲われてもいいって言うの?」
「だから、お前を襲うモノ好きはいねえってば」
そう憎まれ口を叩きながらも、同じ方向を歩いている。恵は自分の心が少しだけ軽くなったような気がした。言葉は悪いが、左之助は左之助なりに
自分を心配してくれているのだ。そう思ったら、自然と口元に笑みが零れる。そんな二人の後姿を、月明かりが優しく包んでいた。

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