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ウタカタノユメ

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かなりや~明日②~

こんばんわ。

磐音シリーズは、DVDは全て見終わり、今は一段落。でも、「時代劇専門チャンネル」では、現在「Part3」が放映中ですので、土曜日の午前中は外せません。来週あたり、「Part2」のおさらいをしようかと思案中。
原作は21巻に入りました。と言っても、私の場合は、某サイトの書評を見て、まずはあらすじを抑え、気に入った巻に手を出している状態です。なので、最初の何巻かはすっ飛ばしてます。
男性作家と女性作家の違いを満喫中。日ごろ女性作家が中心なので、表現の違いに驚いてます。
映画「天地明察」のDVDを借りてきました。うん、岡田クン、なかなか良かった!宮崎あおいちゃんも、上手い演技をしますね~。時代物は本当に面白い。自分が生きた世界ではないので、余計ひきつけられます。
で、今から何を見るかといいますと、タケルくんの剣心をおさらいします。


ということで、「明日②」UPです。





今日の診療を終えて遅めの夕食を取り、湯屋へ行く準備をしているところへ、玄斉から呼び止められた。何やら診察室まで来るようにと言っている。
なんだろう…
仕事で失敗をしたつもりもないが、もしや何か患者に容態の悪い人が出たのか…用意していた手拭いとぬか袋を机の上に置くと、恵は足早に診察室へ向かった。

障子を開ければ薄明るいランプの中で、老医師が優しい眼差しで迎えてくれた。薄くなった白髪混じりの髪を、なんとか後ろで一つにまとめ、体裁を保っていた。
恵はこの老医師が好きだ。頑固で一筋縄ではいかないが、心の底に温かな優しさを持っている。まるで自分の父親のような存在に思えた。
「すまんの。湯屋に行くところだったようじゃが」
顎に蓄えた髭をなぞり、体を恵に向けた。
「先生、どうかしましたか?」
玄斉に促されるまま、恵は椅子に座った。
「実は頼みたいことがあってな、あんたにしか出来んことだから、無理を承知であんたを呼んだわけじゃ」
「頼みたい…こと?」
そうじゃ、と老医師は言って、すっかり冷めた出がらしの茶を一口啜った。
「わしの患者が無茶をしおってな…これがまた瀕死の重傷だというんじゃ」
まあ、と恵は小さく呟いた。それと同時に、恵の脳裏に薫の手紙が浮かんだ。傷つき顔を歪める男の顔が頭を過(よ)ぎる。
「無鉄砲というか、バカというか。自分のことは置いても、誰かのためにいつも突っ走っておる。ほんに命知らずの男よ」
「それで、先生はどうなさるおつもりで?私で構わなければ参りますが、お知り合いでしたら先生のほうが患者さんも喜ぶのではないでしょうか?」
「ふむ…そこよ。わしが行っても構わんが、どうもそいつのおる場所が遠くての。いくらわしだとて、さすがにあそこまでは行けぬ。患者もおることじゃて。
それで、代わりにあんたに行ってもらいたいのじゃよ」
恵はどうも要領を得ぬ玄斉の話を、訝しげに聞いていた。
「それで、どちらへ?」
ほんの少しの間を置いて、


「京都じゃよ」


一瞬、何を言っているのか恵には理解できなかった。
今日一日ずっと心に隠していたことを、何故目の前の老医師は知っているのか。
「先生…!!」
だが、その理由はすぐにわかった。
「これじゃよ」
そう言って恵に見せたのは、一通の手紙だ。宛名は小口玄斉殿と書かれてある。その見覚えのある字は、紛れもない薫からのものだった。
「あんたのところにも届いているんじゃろ?」
ええ、と返事をするまでに少し間をおいた。嘘をついたわけではないのに、うしろめたい気持になるのは何故か…
「先生…私は…」
「恵君。あんたはあんたのやり方で、あの男を助けてやればいいんじゃ。なに、こっちのことは心配いらん。わし一人でなんとでもなるわ。それより」
老医師の眉間に皺が寄る。今までに見たことのない、険しい表情だ。

「あの男を…死なせてはならん。」
「先生…!」
「あの男は、これからの日本に必要な人材。例え政の表には立たんでも、影できっと役に立つじゃろう。あいつはそういう男よ」

じじじ、とランプの炎が揺れた。壁に映る二人の影も同時に揺れる。
「私は剣さんのおかげで生きていられるんです。本当は死を持って償うべきなのに。私は剣さんに命をもらいました。だから今度は私が剣さんを助けます。」
恵の決心を聞き、うむ、と老医師は満足そうにうなずいた。

そうだ、死なせてはならない。
緋村剣心はこの日本を守る力を持つ男なのだ。
薫からの手紙を受け取ったとき、なぜ京都行きをあれほど躊躇したのか。あれこれ理由をつけていたが、とどのつまり、答えを見るのが怖かっただけなのだ。

薫と剣心の寄り添う姿を。

玄斉を目の前にしたときに感じた後ろめたさは、その隠れた心を見透かされたように感じたからだ、と恵は思った。だが、その思いはもう消えた。
私は私らしく、私のやり方で、緋村剣心という男を愛していく。例えそれが報われぬとわかっていても、最後の最後まで剣心を支えていこう…
恵は両の拳をぎゅっと握った。全ての患者のカルテを整理して玄斉に引継ぎ、明日出来るだけ早く京都に発とう。恵はすくっと立ち上がると、深々と頭を下げ踵を返した。
障子が乾いた音をたて閉まる。恵の足音が遠ざかる。

「…辛いのぉ…」

老医師は静かに、そして大きくため息をついた。



新橋までは妙と燕が送ってくれた。一人で大丈夫だと言う恵に、妙がきっぱりと言う。
「何言うてますねん。うちら、もう家族同様やおへんか」
恵は瞠目した。まさか妙の口からそんな言葉が出るとは思っていなかったからだ。
「か…ぞく」
「そうどす。あんさんだけやない。剣心はんも薫ちゃんも弥彦君も、左之助はんも。みいんな、同じどす」
せやから、と言って妙は恵の手を取った。
「どうか、あの四人を連れて帰って。」
「妙さん…」
妙の目が潤んでいた。妙は妙なりに、京都での戦いをずっと案じていたのだ。
恐らく妙も、そして妙の姿を見てもらい泣きしている燕も、きっと京都へ行きたいに違いない。
「道中、気ぃつけてな。白べこにはうちから連絡済みどす」
「妙さん、燕ちゃん、お土産は活きのいい四人組みよ」
落ちそうになる涙をこらえ、恵は元気に言った。
人付き合いが得意ではない恵は、あまり馴染まないように心がけていたけれど、どうやらいつのまにかどっぷりとこの街の住人になっていたようである。
妙のおかげで、剣心の容態を案じながらも、優しい気持で旅立つことが出来る。きっと、剣心は生きてくれる。恵は雲ひとつない真っ青な空を仰ぎ、よし、と心の中で呟いた。



「何よ、泣き虫」

警察病院の入り口で恵を迎えたのは、大粒の涙をこぼしてギュッと唇を噛んだ姿の薫だった。拳を握り眉間に皺を寄せ、
入り口にあるわずか数段の階段の上で、立ちすくんでいた。この炎天下、ずっとこの場所に立っていたのだろうか。こめかみから幾筋もの汗が流れていた。
見れば、薫の頬には手当てをした後が見られた。両手にも白い包帯が巻かれている。その姿を見ただけでも、今回の戦いがどんなに凄惨なものだったかが容易に想像できた。

―――それならば、剣さんは…

一命を取り留めたとは言え、予断を許さない様子。この建物の中で痛みに苦しんでいると言うのか。恵に恐怖が襲い掛かった。
だが、それを悟られまい、と恵は腹に力を入れた。何故なら自分は医者なのだ、と。剣心が自分に与えてくれた道を、まっすぐに歩いて行くと決めたのだから。
例えそれがどんな結末だとしても、しっかりと前を見据えて受け止めようと、東京を出るときに心に誓ったのだ。
薫の大粒の涙を見たとき、その思いがぐらりと揺れかけたが、寸でのところで持ちこたえた。

まったくもう、だからあなたって言う人は…

嫌味たっぷりに言おうとした。それが恵なりの薫に対する労いの言葉のはずだった。だが、その言葉は次の瞬間、すっかりとのみこまれてしまった。
薫は大粒の涙をこぼした後、恵のもとへ駆け寄り抱きついた。薫の藍色のりぼんが、眼前で揺れる。突然の行動に恵は一瞬言葉を失った。だが、何も言わず、
ただ肩を震わせる薫を前に、自然と両手は薫の体を抱きしめていた。


「よく、頑張ったわね」


優しく肩を撫で付けた後、それだけ言うのが、やっとだった。

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