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ウタカタノユメ

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かなりや~思慕②~

こんにちわ。

三月に入り、三寒四温の言葉通り、不安定なお天気の毎日ですね。皆様、体調は大丈夫でしょうか?
そんな中、桜の便りもちらほらと。いよいよ春本番も目の前ですね。桜と言えばやっぱり我らが薫ちゃん。
可愛くて、少し、儚くて、でも、元気で。私の大好きな花です。
ずいぶん間が空いてしまいましたが、「かなりや~思慕②」をUPします。
どうぞごゆるりとお楽しみください。

最近、「居眠り磐音~江戸双紙~」にはまっています。現在、第3巻。NHKのドラマでも放映されていた作品ですね。磐音様、かっこよくてどうしよう!wikiであらすじは先読みしているのですが、まだまだ先の話。ゆっくり読み込んで行きたいと思います。(その間に、別の作家さんの本も並行して読むので、ストーリーがごちゃまぜになりそう(笑)でも、止められない!!)炬燵の中で、ぬくぬくしながらの読書は、贅沢以外の何物でもなし!!







右も左もわからない京都で操に出会えた偶然は、薫にとって何よりの幸運だった。
必ず剣心を連れて帰ると心に誓ったものの、先行きが見えない状態に時には気持が塞ぐこともあった。
だが、操の元気の良さに薫のへこみそうな気持は何度も救われた。そしてそれと同時に、京都に着いた
ときに出会った、美しい黒髪の女性の言葉も、薫の心を支えていた。


――思いは通じる。そう信じていれば、きっと願い事は叶う――


今、その言葉を胸に、薫は山道を操、弥彦と共に登っている。そう、ようやく、会えるのだ。
別れたのはほんの少し前だというのに、もう十年も会っていない気がした。もしもあの人の顔を見たら、
私は何と言おう。そう思うだけで、胸がぎゅうっと締め付けられそうだった。
突然、薫の歩みが、ぴたりと止まる。

「どうした?」

弥彦が振り向き、心配そうに顔をのぞき込んだ。

ああ、大丈夫よ、と言いかけて、不覚にも涙が零れた。

「薫…」
「薫さん」
「ご、ごめんなさい」

右手の甲で大粒の涙をぬぐった。自分でも何故涙が零れたかわからなかった。
ただ、別れたときの剣心のぬくもりが、急に薫の体に甦ってきたのだ。薫の鼻腔をかすめた露草の香りが、甦る。

「ばかやろう。メソメソしてる間に、剣心がまたどっかに行っちまったら、どうするんだ!」
弥彦の言葉に、薫は声もなく首を振った。
「弥彦!そんな言い方しないの!」
操は弥彦を窘めると、薫の肩を優しく抱いた。
「大丈夫だよ。緋村は絶対あそこにいるから。きっと会えるから。」
「うん、うん、そうだね。ごめんね。しっかりしなくちゃ。あともう少しだもんね」

不安とか、恐怖とか、そんな感情ではなかった。ただ会いたい気持が募り、それが涙となって零れたのだ。
既に薄暗くなった山道を、弥彦の持つ提灯の灯りが頼りなげにゆらゆらと揺れた。



思いは通じるといった女性の言葉は、果たして現実のものとなった。


――薫殿


志々雄が放った刺客との戦いを終え、傷つきながらも全員が無事であることに安堵したとき、
薫は確かにその声を聞いた。それが空耳であったにせよ、きっと剣心は生きて帰ってくる。
確証はないが、本能がそう感じ取っていた。
だから、朝日と共に、両脇を蒼紫と左之助に支えられた剣心の姿を見たときは、嬉しさよりも安堵で足ががくがくと震えた。

「剣心!剣心!」

血まみれの体を見ても、驚きこそすれ、何故か死を連想することはなかった。


きっと大丈夫。このひとは、死なない。いや、死なせはしない。

「…か、かお…る…」
苦しい息の下からたった一言だけ聞こえた剣心の声。自分の名を呼ぶ剣心の手をしっかり握り、薫は心の中で誓ったのだった。



日本を窮地から救った男の手当ては、当時の医学の全てを結集し行われた。
傷は殊のほか深く、一時は生命の危機と危ぶまれたが、奇跡的に一命を取り留めた。
担当した医師は、その生命力に驚きの声をあげた。

「相当の思いがあったのですな」

寝台に横たわる剣心を見下ろし、医師は言った。

「思い…?」
「そうです。生への思い。生きることへの執着。これだけの傷を負って生きていた人は、初めてです」

医師の言葉が薫の心に響いた。剣心にどれだけの思いがあったのかはわからないが、今こうして目の前で息をしている。
それだけでも薫にとっては喜びだった。

時に神谷さん、と医師に呼ばれ、薫は我に返った。

「高荷恵さんを呼ばれたそうですね」

まさか医師の口から恵の名が出るとは思わず、薫は驚いた表情を見せた。
「先生…?」
「いや、高荷君のことは我々もよく存じていますよ。彼女は有能な医者ですからね。
東京でいろいろと苦労したと聞いていますが…」
医師は両腕を胸の前で組み直した。
「彼女のような腕のいい人は、明治政府もどんどん医師として使うべきだ。これからは男女関係なく、
有能な人材を育てていかなければならんでしょう」
「恵さんは私たちにとってなくてはならない人なんです。剣心の体を一番よく知っているのも、恵さんです。」
医師に告げながら、薫は改めて恵の存在の大きさを思った。京都の医師も知る高荷恵の存在が、どれほど重要だったのか。
おそらく恵は明日には京都に着くだろう。今の薫にとって、恵を待つ一分一秒が、途轍もなく長いものに感じられていた。



恋敵の前でなど、涙を見せるものか。


以前の薫ならば、きっとそう思っていたことだろう。
いや、実際、恵に会う直前までは、確かにそう思っていたはずだった。
だが、意に反して、不覚にも再び薫の大きな瞳から涙がこぼれた。


「何よ…泣き虫」


病院の入り口で、自分の顔を見るなり大粒の涙をこぼした薫に向かって、恵は呆れたように言う。
まったく、だからあなたって言う人は、と言おうとして、その先を阻まれた。
気がつけば、薫が恵に抱きついていたのだ。
声を押し殺して泣く薫を、恵はしばらくのあいだ困惑した思いで受け止めていたが、やがて軽いため息を一つついた。


「よく、頑張ったわね」


右手で薫の肩を軽く叩いた。それだけで、薫と恵の心は一つになることが出来たのだった。


恵を含む医師たちの治療と、薫の献身的な看病で、剣心は死の淵から蘇った。
まだ時折微熱が出るものの、日中はそれでも起き上がることが出来るまでに回復していた。
剣心の回復を祝う宴会が、白べこで夜毎繰り広げられるのは、さすがの薫も閉口したが、
皆の顔に浮かぶ笑顔を見れば、それも仕方あるまい、と薫は一人苦笑する。


そうだ。ようやく、平和が戻ってきたのだ。


仲間に囲まれて、困ったように笑う男の背中を見ながら、薫は今までのことを思った。
例えこの先何があっても、もう決して離れはしない。多分それは剣心も同じ思いだろう。
いつの間にか、季節は盛夏を通り越し、初秋を迎えていた。笑いの絶えない白べこに、
未だ勢いの衰えぬ太陽が容赦なく照り付けていた。





赤とんぼが神谷道場の庭先を、滑るように飛んでいる。秋だというのに、照りつける太陽は真夏の勢いが残ったままだ。
廊下から見えた剣心の背中に、一言文句を言おうとした。
あれほど時間のあるときは横になっていろと恵から言われているはずなのに、
少し気を許すとすぐに起きて、あれこれ体を動かしている。死の淵を彷徨った男の生命力には誰もが驚かされたが、
これでは心配で何も手につかない。


――剣心!


と、喉まで出掛かって、その言葉を飲み込んだ。
青い空を眩しそうに眺める剣心の表情があまりに優しくて、思わず見とれた。
こんな表情の剣心を、今までに見たことがあるだろうか…
つい先日まで、京都で死闘を繰り広げたとは思えないほど、それは穏やかな顔だった。

薫の脳裏に、京都でのある出来事が思い起こされた。


あの日…恵に呼び出された。少し険しい恵の表情に、もしや剣心の身に何かあるのでは、と案じた。
小さな茶屋の店先で、二人は運ばれてきたばかりの氷を匙ですくった。太陽の光が氷の粒に反射し、きらきらと輝いている。
しばらくの沈黙の後、京都に駆けつけてくれた礼を言う薫に、恵は少し苛立ったように語気を強めた。


―――「この次」は死んだっておかしくないのよ


不吉な言葉が薫に津波のように押し寄せた。恵は医師として冷静な判断を薫に告げたが、
薫にとってはまさに考えもつかないことだった。だが、考えてみれば、あたりまえのことだ。
緋村剣心は超人ではない。人より運動神経が優れているだけで、それ以外は普通の人と何ら
変わらないのだ。
何故、そこに気がつかなかったのだろう。薫は己の浅はかさを心底恥じた。
剣心のことを誰よりも理解しているつもりでも、結局はわかっていなかったのだ。


「恵さん、私…」


情けない声の薫に、恵は大きなため息をひとつついた。



「だから…剣さんが常に生きて帰ると強く思えるよう、これからはあなたがもっとしっかりしなくちゃならないのよ」


まさかの恵の言葉に、薫は己の耳を疑った。恵の剣心に対する思いは、十分に承知していた。
その恵が、自分の気持に決着をつけ、剣心への思いを諦めたと言うのだ。そして、一番の恋敵であるはずの薫に、
「しっかり剣心を守れ」と告げたのである。

「恵さん…」

言葉を探す薫に、恵は言った。

「あなたのためじゃない。私は剣さんのために言っているんだから」

その肩が少し震えていたのを、薫は見逃さなかった。



今、共に手を携え、こうして東京に帰り、穏やかな生活を共に過ごしている。
この幸せは、恵を始め、いろいろな人の思いが合わさりあたえられているのだと思うと、
薫は決して毎日を無駄に過ごしてはならぬのだ、と思う。


――ありがとう、恵さん


薫は心の中で、再び恵に礼を言った。


「剣心!何してるの?」


恵の言いつけを守らない剣心に、薫の怒気を帯びた声がかかる。仁王立ちの薫の姿に、剣心が笑った。

「もう!人の気も知らないで!心配だから言うんだよ?」

そう言いながらも、薫は幸せを噛み締めていた。


生きているから言える言葉。
生きているから心配できる。


そう思ったとき、薫の視界に鮮やかな黄色が飛び込んできた。目を凝らしよく見れば、見たことのない鳥だ。

「あれは…かなりや」

剣心はそう言ったまま黙った。


「なんて綺麗な鳥…」
その黄色があまりに美しくて、思わず手に取りたくなった。捕まえられるはずもないその鳥に手を伸ばそうとして、
いきなり剣心に手を掴まれた。慌てて顔を見れば、何故か悲しそうな目をして薫を見ている。
二人の視線が、絡み合った。我に返った剣心は、いつもとは全く違う表情で、しどろもどろに言葉を探していた。
やがてかなりやは枝を離れ飛び立った。止まっていた枝葉が、上下に大きく揺れている。
本当は捕まえたかったのだけれど…この手に取り、大事に育てたかったのだけれど…

「でも、仕方が無いよね。鳥は自由に空を飛ぶのがいいんだものね。」

薫は黄色い姿を目で追いながら、でも、と言葉を続けた。

「かなりやは飛んで行ってしまったけど、剣心は…」
「え?」
薫ははにかむように俯くと、

「帰ってきてくれた」

生きて帰ってきてくれた。
もう、二度とここを離れないと、信じてもいいのだろうか。

精一杯の言葉を告げた後、気恥ずかしさのあまりその場を逃げるように、走り出した。
道場へ向かう途中、薫は立ち止まり、剣心のいる庭に向かって振り返る。

「本当に…本当に…おかえりなさい」


そっと呟いたあと、再び道場に向かって走り出した。走るたびに紅いりぼんがゆらゆらとゆれている。

その後姿を見守るように、かなりやが屋根の上に止まっていた。



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