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ウタカタノユメ

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おんなともだち②

こんばんわ。

三連休ですね。みなさまは、いかがお過ごしですか?
私は、連休中2日は会議に時間がとられます。会議屋とお呼び下さい(笑)

さて、「おんなともだち」第二話。薫と恵の酔っ払い、ちょっと艶めかしいかも(笑)
では、どうぞごゆるりと。




 
「恵さん…聞いてもいい?」
会話が途切れたのをきっかけに、私は思い切って尋ねた。恵さんは、少し困ったような顔をしたが、観念したのか「どうぞ」と低い声で言った。
「どうして、突然帰ろうと思ったの?」
「それはこないだ、言ったでしょう?昨日今日で決めたことじゃないって…」
嘘、と私は恵さんの言葉を遮った。こんなことが言えるのは、やっぱりお酒が入っているからなんだと思う。
「恵さん…まだ、剣心のこと、想ってる?」
私は、決して聞いてはいけないことを、口に出してしまった。けれど、後悔はしなかった。どうしても、聞いておきたかった。ずっと、もやもやとした感情が、私の心の中に溜まっていたからだ。
「あなたも、きついこと聞くわね」
唇をきりきり、と噛んで、恵さんは私を睨んだ。ごめんなさい、と私は素直に謝った。
「ま、謝ることじゃないけれど。今更、もう、仕方がないことでしょう。剣さんはあなたを選んだ。私は、選ばれなかった。ただそれだけの話。」
「それじゃあ、答えになっていないわ。私は恵さんの気持ちが知りたいの」
「いやね?そんなこと聞いて、どうするの?あなたは、優越感に浸りたいだけじゃないの?」
手酌で酒を注いで、それをぐい、と飲み干した。徳利はもう三本目が空になっていた。
「そうじゃないの。優越感とかそんなんじゃない。でも…ずっと気になっていた。もしもまだ恵さんが剣心のことを好きなら、私はどうすればいいんだろうって。どんな態度であなたに接すればいいんだろうって。何をしても逆効果になってしまいそうで、とっても悲しかった。だって、私にとっては、恵さんも剣心も大切な人たちだから…」
私の言葉に、恵さんは目を丸くしている。
「びっくりだわ。あなたからそんな言葉が出るなんて。私のことが大切、って…」
「そりゃそうよ。一緒に苦労していろんな戦いを乗り越えてきた仲じゃないの。私にとっては戦友みたいなもんだわ。同じ人を好きになって、けれどそれだけは譲れなくて…確かに剣心は私を選んでくれたけれど、だからといって恵さんとの関係も私には大事なんだもの」
自分でも、何を言いたいのかがわからない。けれど、心に溜まっている本音を
酒の力で吐き出したかった。
恵さんはしばらく私を見ていたが、くすっと鼻で哂った。
「あなたって、ほんとに、お子ちゃまねぇ。おまけに欲張りときてる。」
いい?と言って、恵さんは私に顔を近づけた。少し赤くなった頬が、より女の色気を出していた。心底、綺麗だと思った。
「色恋沙汰に、綺麗も何もないのよ?あなた、もし、私が剣さんのこと奪ったら、どうする?おとなしく引き下がる?」
私は、黙ったまま、首を横に振った。思いが通じていない時ならいざ知らず、もし今、剣心を他の女性に奪われたら、私、多分、正気じゃいられない。
「でしょう?綺麗に人を愛するなんて、夢の中だけのお話。現実はいろんな思いが混ざり合って、結構ドロドロするものなのよ?」
私はね…恵さんは、長い黒髪を気だるそうにかき上げた。この仕草も、酔いからきているのだろうか。綺麗なうなじに、ぞくりとした。
「本当は、あなたが嫌いで、仕方がないのよ」
そんなこと…わかっていたわ。好かれているなんて、初めて会ったときから思っていなかった。でも、それをそのまま言われてしまうと、さすがの私もへこんでしまう。恵さんは、そんな私のことを全く意に介さず、更にきつい言葉を投げかけた。
「全部、あなたが持っていっちゃった。私の欲しいもの。だから、あなたが嫌い。その明るさが、私には煩わしいのよ。」
あの人は、影、と、表す恵さんは、あえて剣心の名を出さない。
そして、私は光なのだと言う。
「光は、影を取り込み、更に輝きを増したというわけです」
「恵さん…酔ってるの?」
「酔ってなんかいないわよ。このくらいのお酒で酔うわけないわ。でも、酔いたい気分ではあるわね。酔って全てのこと忘れて、明日になれば、幸せな時間が待っている、なんてどうかしら。」
「…私、あなたになんて言えばいいんだろう…」
恵さんは、剣心を愛し続けている。多分、これからも、その気持ちは変わらない。それなのに私は恵さんにかける言葉すら、持てないでいる。
「…あなた、京都で、私に何て言ったか、覚えていて?」
頬杖をついて、私の顔をじっと見る。
「私、何か失礼なこと言ったかしら?」
本当に覚えていないのだ。いや、覚えていない、というより、悪いことを言った覚えはないのだ。
「かき氷食べながらね?あなた、私に『ごめんなさい』って言ったのよ?ねえ、これがどんな言葉か、あなた、わかる?『ごめんなさい』って、何にごめんなさいなの?後先を考えない謝罪は、時に人を惨めにさせるものなのよ?」
私は思わず目を閉じた。
ああ、それが原因なんだ。だから、今夜の恵さんは、酔いを装って、耐えていた思いをぶつけているのだ。
「気持ちが通じたなら、堂々としてくれていたほうが良かった…ごめんなさい、なんて、さらに惨めになるだけだわ…だって、私、剣さんを本当に愛していたのだもの」
「…うん」
しばらく、沈黙が流れた。虫の音だけが、私と恵さんを包む空間に入ってくる。
けどねぇ…
その沈黙を破ったのも、恵さんの一言だった。
「憎みきれなかったのよ、あなたのこと」
「え?」
「嫌いで、嫌いで、どうしようもなくて、あなたなんてどこかに行っちゃえばいいって思っていたのに、私、いつの間にか、あなたの姿を探していたりしたわ。あなたが風邪をひいたって、弥彦君から聞けば、『ばっかじゃないの?』って声に出しながら、あなたのこと考えてた。あなたって、ずるいわよね。そうやって、誰の心の中にも、平気で入って、居ついてしまうのよ。私ともあろう者が、あなたみたいなお子ちゃまに、ほーんと振り回されっぱなしだったわ」
 
恵さんは、私の猪口に、酒を注いだ。
 
「今だって、あなたなんて、大っきらいよ。幸せにならなけりゃ、もっと嫌いになるからね?」
 
私は、泣いた。思い切り泣いた。
剣心をあなたから奪って、ごめんなさい。
私ばかり、幸せになって、ごめんなさい。
けれど、それは決して声には出さなかった。
 
「あなたに言われなくたって…幸せに…なってやるわよ!こんちくしょう!!」
 
泣きじゃくっている私は、それを言うのが、精一杯だった。
 
「…よく言えました」
 
恵さんは、私の頭を軽く二、三度、叩いた。
 
 
私が目を覚ましたのは、剣心の背中だった。
ゆらゆらと揺れる感覚が心地よくて、私はつい「んー…けんしーん」と、口にしてしまったようだ。
「なんでござるか?」
私の耳に、聞き覚えのある声が届いた。
「え?」
素っ頓狂な声に、剣心は立ち止まって、振り向いた。
「大丈夫でござるか?ずいぶん、酔っ払っているようだが」
少し呆れたような声だ。
「ご…めん。やだ、私、降りるわ」
ようやく今の状況を把握した私は、剣心の背中で身じろいだ。
「いいでござるよ。歩いてもふらつくだけでござる」
剣心は、よいしょ、と、軽く態勢を整え、再び歩き出した。私は、蚊の鳴くような声で、「ごめん」と詫びた。
「薫殿の事が心配になって、左之と二人で診療所に行ったのでござるよ。そうしたら、案の定、二人でへべれけになって、それはもう、手がつけられないほどでござったよ」
「嘘!私、そんな酔ってた?」
剣心の言葉を真に受けた私は、全身から汗が噴出したのがわかった。
「ごごごめんなさい!!」
私の反応に、剣心は意地悪そうに笑った。
「嘘でござるよ。酔っ払っていたのは事実だが、すんなり拙者の背中に抱きついて来た」
「だ、抱きついてきた!?え~っ?」
「だから、こうやって、薫殿をおぶっているでござるよ」
恥ずかしさのあまり、私は何も言えず、剣心の背中に顔を埋めた。
「可哀想なのは、左之助でござる。」
「え?どうしたの?」
「恵殿は左之助に任せたのでござるが、介抱しようと身体を触ろうとすれば、思い切り殴られ、蹴られ…挙句の果てに、変態呼ばわり。それでも、辛抱していたでござるよ」
そうか…恵さんも、かなり酔っていたのだ。自分だけが醜態を曝したのではないとわかり、私は安堵のため息をもらした。
今は何時ごろなのだろうか。おぶわれたまま、空を見た。星が美しい。
私は、ふと、恵さんとの会話を思い出した。
 
「あのね…私、恵さんとずっと話をしたかったの」
剣心は黙って私の話を聞いていた。
「恵さん、私のこと、嫌いだって。ずっと、ずっと、嫌いだったって」
「おろ…そうでござるか」
「幸せにならないと、もっと嫌いになるって」
剣心はしばらく黙っていたが、
「それなら、これ以上嫌われないように、幸せにならねばな」
と、言った。
「剣心…寂しくなるね…」
「…そうでござるな」
再び、涙がこみあげてきた。さっき、あんなに泣いたのに。これでもか、というほど、涙は溢れてくる。私は、ぎゅっと剣心にしがみついた。
「薫殿は、いい親友を持ったでござるな」
私は、しゃくりあげながら、ようやく「うん」と頷いた。
 
ねえ、剣心。
恵さんは、本当にあなたのことが好きだった。
それをあなたが気がつかないはずはない。
あなたにとって、恵さんはどんな女性に映っていたんだろう。
今更そんなこと聞くこともしないけれど、やはり少し気になる。
けれど、これだけは言える。
恵みさんが何と言おうとも、私にとっては、同じ時を過ごした大事な仲間であることには、変わりない。
 
 
――やっぱり、あなた、お子ちゃまねぇ
 
夜風に乗って、恵さんの声が聞こえたような気がした。
 

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