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ウタカタノユメ

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緑の少年③

こんばんわ。

ちょっと管理画面の状態がうまくいかなくて、UP出来てるかどうか心配ですが、とりあえず最終話です。
よろしくです。




元来た道を、弥彦は相変わらずすさんだ気持ちで帰る。どうもあの和尚は苦手だ。自分の弱い部分を、真正面から突いてくる。説教など聞いてられるか。大体、お節介なんだよ。薫も和尚も、剣心も。
竹刀を力任せにぐるぐる振り回す。びゅんびゅんと音がした。あの道場に来たとき、剣心が薫に頼んで、古い竹刀を持たせてくれた。持ったのは初めてだ。父親が着けていた腰の物は、決して触れてはならぬときつく言いつかっていた。本当は触りたくて仕方がなかったのだけれど。
だから、竹刀を手にしたときは、自分が少し強くなった気がした。これで、今まで俺をこきつかっていた野郎たちを、やっつけてやる。子供心に、何でも出来る気がしてきたのだ。
街にさしかかるとき、どこからか「助けてくれ」とか細い声が聞えた。
足を止めて周りを見る。見回した一番最後に、少年が倒れていた。年の頃なら、同じだろうか。

「おい!どうした!?」

竹刀を持つ手に力が入る。駆け寄って抱き起した。顔を殴られたらしく、鼻血が出ていた。

「くそう…っ!財布、盗られた。」

弥彦の胸がチクリと痛む。つい最近まで、自分は盗る側だった。
「あれがねえと、父ちゃんの薬代払えないんだ!今日、やっと金が貯まったって言うのに!」
弥彦の脳裏に、母親の顔が浮かんだ。ああ、そうだ。つい少し前、俺もこいつと同じ顔をしていた。そう思ったら、「わかった!俺が取りかえしてきてやる」と、自分でも驚くような言葉を言っていた。

竹刀をぎゅっと握って、不届きな輩の後を追う。その集団はすぐにわかった。財布を手のひらでぽんぽんと上下に振りながら、「どこ行く?」などと話をしている。脅し取った財布の中身で、腹ごしらえか。弥彦はチッと舌打ちをした。その背中が自分のようで。だから余計腹がたつ。
「おい、待てよ!」
その言葉に、ああ?と言って、振り向く。何の用だ?ガキが!吐き捨てるその言葉に、食って掛かった。そいつを返せ。その金はあいつのもんだろう?
その後のやりとりは、想像以上のものだった。
返せ、関係ないから始まり、弥彦をぶん殴り、羽交い絞めにして、体中を痛めつけた。それでも弥彦は諦めない。

「すまねえな、往生際は天下一悪ぃんだ。」

弥彦が一人の男の手に噛みついた瞬間、別の男の懐から匕首が出てきた。
死にやがれ、ガキ!と叫んで腕を振り下ろした瞬間。

「悪ふざけもいい加減にするでござるよ」

匕首は簡単に剣心の逆刃刀に弾き飛ばされた。突然の男の―しかも、ものすごく眼光鋭い―登場に、輩は一目散に逃げ出した。

「全く…おぬしは本当に厄介な男でござるなぁ」

笑いながら刀を鞘に納めた。剣心の傍から財布の持ち主が済まなそうに出てくる。財布の無事を確認して、少年は何度も頭を下げて帰って行った。

「んだよ。助けてくれなんて、頼んでねえよ」
「お主が頼んでなくとも、さっきの小僧が拙者に頼んだからな
ほら、と言って剣心は右手を差し出した。ちきしょう、余計なことしやがって、と言った後に、出された手をちゃんと握っていた。

「優しいくせに。だが、なかなか面白いガキだ、お主は。」

は?と怪訝な声で剣心を見た。
「ま、いい。とにかく、あまり薫殿に心配かけるな。あんな風でも、お主の事ばかり話している。それだけ放っておけないのだ。」
「うるせえよ、お節介流浪人。俺はとにかく、強くなるんだ。強くなって、悪いヤツラ、みんなこの手で倒すんだよ」
弥彦は、じゃあな、と踵を返す。ただ、「夕飯までには帰るからよ」との言葉を忘れなかった。



帰り道、剣心は寺の住職の話を思い出していた。

「拙者、明神弥彦と共に、ある剣術道場に居候の身。ただ、まだ知り合ったばかりでなかなか上手く気持ちが通じ合わず、どうしたものかと思っていたのでござる。もし、よければ、弥彦のことを教えてくれぬだろうか?」
弥彦が寺を出て行くのを見届けて、和尚に話しかけた。
「そうでしたか。」
和尚は柔和な笑みを浮かべた。目元の皺が、温厚な性格を物語っている。

「拙僧は弥彦の身元引受人、とも言うだろうか?」

弥彦の両親とは…特に上野の戦いで亡くなった父親とは旧知の中でしてな。年齢こそ違え、意気投合しまして。あのような男が日本を支えるのでは、と思うておりました。だが、あの若さで明神は命を落とした。その後の暮らしは、想像に難くないはず。まるで決まっていたかのように、内儀は女郎に身を落とし、けれど必死で弥彦をなんとか育てようとした。だが、やはり無理が祟り、明神の後を追うように内儀も他界。内儀は亡くなる前に、拙僧のところに文を寄越しましてな。弥彦を頼むと、わずかな金を文に添え、死んでいきました。ここで内儀の躯を弔い、弥彦をここに引き取ろうとしましたが、いつのまにか行方知れずに。気づいた時には、掏摸などに手を染めておりました。さっき弥彦の顔を見たのも、
久しぶりなのです。

和尚は、深いため息を落とした。
「和尚殿、大丈夫でござるよ。もう、掏摸からは足を洗わせたゆえ二度と悪いことはせぬはず。決して拙者がそうさせぬと、と誓うでござるよ」
和尚は剣心の手を握り、ありがとう、ありがとう、と何度も頭を下げていた。

悪いことなど、出来ないはずなのだ。弥彦はもう自分の帰る場所を見つけた。とりあえず、誰におびえることもなく、夜はゆっくりと眠れる。
剣心は弥彦が少年を助けたところを、一部始終見ていた。財布は俺が取り返してやる、と少年に言い放った弥彦の瞳に嘘はなかった。
ああ、これならまだ救える。理屈よりも、体が先に動く、それが心配と言えば心配だが、齢・十にして上手く立ち回る方が可笑しい。

「活心流こそ、未来あるお前が身に着けるべきもの。お前は必ず強くなれる」

これから芽吹く葉のように、その心は美しい緑であれ。
神谷道場での居候暮らしが、少し楽しみになったと、剣心は家路へと急いだ。


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