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ウタカタノユメ

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緑の少年①

こんばんわ。

すでに実写版に行かれた方も多いと思います。どうでしたか?楽しめましたか?
私は明日行く予定。

今日から新連載。
弥彦のお話です。すさんだ生活を送っていた弥彦が、神谷道場に来たばかりの頃です。
すぐに活心流を目指したわけでも、一生懸命稽古に励んだわけでもない、最初はとんでもないヤツだと思ったんです。
でも、ヤツは根はやさしいので、結局人助けとかちゃんとしちゃう。いや、まだ弱っちいからボコられるんだけど、それでも体が先に反応する。あの子はいい子なんだわ~。
「緑」を選んだのは、自分的に弥彦のイメージカラーだから。「かおりちゃんねる」時代の作品の中にも「緑、萌ゆ」という作品があるほど、ヤツは新緑の、若々しい緑が似合います。そんなわけで、心も新緑の美しい緑色になれ、と、まあ、そんな感じです。

ということで、第一話、お楽しみください。




どうしようもない少年が、神谷道場の居候となった。
明神弥彦。齢、十。東京府士族、だという。その士族である弥彦の生活は、惨憺たるものだった。手癖が悪いのかどうかはしらないが、掏摸(すり)をして暮らす毎日。剣心と薫との出会いも、橋の上で弥彦の獲物になった剣心に、当然のごとく見破られたのが最初だった。
あどけなさの残る顔立ちは、将来男前になるであろう予感がする。だが、その表情に笑みはない。眉間に皺をよせ、口汚く相手を罵る。何かにつけて、俺は東京府士族だと喚き散らす。うるさいっ!と何度薫が怒鳴ったことか。その都度、剣心は薫を宥めるのだ。
「まあまあ、薫殿。弥彦にも言い分があるのだから」
と、随分甘やかしている。

「ブス女!一生黙ってろ!」
「なんですって~?」

そこから一戦始まる。弥彦が来てから、その流れは三日で慣れた。
だが、剣心は知っているのだ。弥彦のそれが、実は寂しさを隠す故だったこと。夜中、一人で声を出さずに泣いていること。
十の少年は、寂しさと不安が一緒になって自分を襲ってくるのを、ただ声を殺して耐えているのだ。
剣心にも覚えがある。
極貧の中で育った者には、相憐れむところがあるのだ。だが、同時に剣心は、弥彦の性根がまだ腐っていないことも知っている。今なら、まだ間に合う。今しかない。

「おい、剣心」

自分よりもはるか年上の男を捕まえて、「剣心」と呼ぶ。薫は自分のことを棚に上げて、それも文句を言ったが、剣心はやんわりと薫のことばを制した。

「俺に、その飛天なんちゃら、ってヤツ、教えろよ」

強くなりたい、と思う気持ちが日増し強くなるこの少年は、強さをはき違えていた。
「俺は、強くなるんだ。お前みたいに、悪いヤツを剣でなぎ倒してやるんだ」
この年頃にありがちな、強いものにあこがれる眼差しとは、少し違う。
「弥彦、お主、なんでそんなに強さに拘る?」
知っていて尋ねた。そんなこと、誰よりも剣心がわかっている。だが、敢えて聞く。
「あたりめえだ。お前、俺の暮らしの酷さ、知ってるだろう」
この道場に来る前は、ヤクザに一味にいいように使われていた。両親はすでに他界している。特に母親は、女郎に身を落として死んだ。それを、笑ったヤクザノの言葉を、今さらながらに思い出し、拳を握る。
「お前みたいに強くなって、俺は俺をバカにしたヤツを見返すんだ。」
だから、なあ、教えてくれよ。
そんな弥彦に、剣心はいつもの柔らかな笑顔ですり抜けるのだ。


「まったく、あの子、ここに来てからと言うもの、全然練習もしないのよ?」
「はは、そうでござるなぁ。でも、薫殿。こういうのは、待つのが得策。無理やりやらせても、効果はないと思うのだが」
薫は洗濯物を畳みながら、「まったく、あなた、弥彦には甘いのね」と呆れ口調でため息をついた。


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