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ウタカタノユメ

かなりや~思慕①~

こんばんわ。

先日見たDVDのショックが、今も続いております。
いや、もう。何も言うまい。

八重の桜を毎週見ています。勝先生もちゃんと出てますよ。私としては、川崎尚之助が好物なので(笑)


さて、「かなりや~思慕~前編~」UPです。これは、薫視点。剣心一途な薫ちゃん。そういうところが、可愛くて仕方がない♪

では、お付き合いのほど。




蛍火の中、節くれだった無骨な手が、薫の肩を突然抱き寄せた。
不意な抱擁に、薫は息を飲む。

(剣心…)

好きで好きでたまらない男の体に抱き寄せられ、緋色の髪が薫の頬にふれた。
その時、嫌な予感が薫を襲った。それは今朝から薫の中で少しずつ大きくなっていたものだ。
さらに強く体を抱き寄せられたことで、その不安が増した。腕の力が強くなればなるほど、
不吉な予感が当たる気がして、薫は少しだけ剣心の腕の中で身をよじった。


(お願い…何も…言わないで…)


そう言おうと思っていた。だが、それよりも先に、その言葉は発せられた。



―――拙者は流浪人。また流れるでござる…



初めて愛した男は、露草の香りがした。



かなりや~思慕~



どれだけ泣いたかわからない。
多分、一生分の涙を流したと思う。
布団にくるまり、耳を塞ぎ、両目をぎゅっとつむった。
繰り返し襲う悲しみに、息が出来ない。
ゆうべの剣心のぬくもりが、薫の体に甦るたび、しめつけられそうな感情に襲われた。

なぜ、追わなかったのか。
なぜ、止めなかったのか。

旅立つ男の前に立ちはだかり、腕を開いて制止すればよかった。
もしもここを去るのなら、私を殺して行くがいい、と脅し文句を投げつければよかった。
恥じも何も全てかなぐり捨て、髪を振り乱し食い下がればよかったのだと、自分を責めた。

重い体をゆっくり動かし、布団から這い出した。ふらふらと亡霊のように歩き、剣心の部屋をそっと覗く。
もしや昨日のことは夢だったのかもしれないと、少しの期待を持って襖を開ければ、きちんと
整理された部屋の片隅に、薫が二三日前に活けた花が、うな垂れたように萎んでいた。
改めて現実を突きつけられ、薫は両手で顔を覆い、再び嗚咽を漏らした。


弥彦の叱咤も、左之助の怒りも、今は薫を動かす力にはならない。
目の前でただ泣くばかりの薫に、妙が優しい言葉をかけても、薫の心は荒んだままだった。

そんな薫の心を動かしたのは、薫を一番敵視している恵の言葉だった。
乱暴に障子を開けたあと、泣いてばかりの薫を煽った。
あなたの剣さんに対する気持は、その程度のものだったの、と鼻でせせら笑った。
この時ほど、恵を憎んだことはない。


あなたに何がわかる…


そう食い下がったとき、恵は言った。


「さよならすら言ってもらえなかった私の気持は、あなたにはわからない」


結局その言葉が、薫を動かすことになった。



今、弥彦を連れて船に乗り甲板に立つ。少しずつ離れていく岸壁を見ながら、見送る妙の後ろで、
黙って船を見つめる恵に向かって、薫は丁寧に頭を下げた。

(恵さん…必ず…必ず剣心を連れてかえるから!)

自然に両の拳に力が入る。もう泣くまい。剣心を慕う全ての人の思いを胸に、薫は心に誓った。
船の進行方向に合わせるかのように、何十羽ものかもめがギーヨギーヨと鈍い声を出して飛び交っていた。



乗り慣れない船に、もっと酔うかと思っていたが、存外平気な自分に驚いた。
それよりも、京都の地に降り立つこと、その気持が薫の心を支えていた。
実際こうして京の町を歩いてみると、すぐそこに剣心がいるようで、更に薫の心臓は高鳴る。


早く…一分でも一秒でも早く会いたい。


その、はやる気持が裏目に出た。弥彦が呆れたように「急ぐな!」と声をかけたにも関わらず、
雑踏を足早に駆けて行ったのが悪かった。前方から来る大八車に気づかず、危うくぶつかりそうに
なったのだ。幸い正面衝突は避けたが、体ごと派手に地面に投げ出された。

「痛ぁ~いッ!!」

顔を歪め、腰に手をあて、やっとのことで体を起こした。

「阿呆!どこ歩いてんねん!」

大八車を引いた男は、捨て台詞と砂埃を残し、その場から逃げるように走り去って行った。

「薫!」

倒れた薫に、弥彦が慌てて近寄る。
「ばかやろう!何やってんだよ」
体と共に投げ出された杖と小さな風呂敷を拾いながら薫を見れば、一人の子供を連れた女性が、
薫の体を抱き起こしていた。


「あらまあ、派手に転びはって」


年の頃なら二十代の中頃だろうか。美しい黒髪を後ろに一つ縛りにした女性は、
薫の着物に付いた砂を、白くしなやかな指で払い落とした。

「す、すみません!大丈夫ですから」

人通りで派手に転んだ気恥ずかしさから、薫の顔は真っ赤に染まっていた。
「ったく、何やってんだ!」
弥彦が拾った荷物を持ちながら、二人に近寄った。
「すいません、迷惑かけちまって」
弥彦の言葉に、女性は優しい眼差しを向けた。女性の隣には小さな男の子が不思議そうな顔で
薫と弥彦の顔を覗きこんでいる。

「あかん、血出てるわ」

見れば肘から血が流れている。女性は「ちょっと待っとき」と言うなり、巾着から手拭いを出し、
びりびりと器用に破いた。

「これを当てなはれ…そやな、あそこへ座りましょう」

女性が指差した先は、毛氈が引かれている茶屋の店先だった。

「京都に着いたばかりやろう?まあ、そんなん慌てんでも京都は逃げへんよ」

女性の言葉に、薫と弥彦は恥ずかしそうに顔を見合わせた。気持ばかりが先走り、周りの状況が全く見えなかった。

二人は女性に促されるままに、遠慮がちに台の隅に腰を降ろした。
運ばれてきた冷たい麦湯を口に流し込めば、慌てていた気持が次第に落ち着いてきた。
薫はそこで改めて女性に頭を下げた。

「何言うてますの、困ったときはお互い様や、なあ、伊織」

伊織と呼ばれた幼子は、嬉しそうに弥彦に手を出した。


「あくす、あくす」


あくす、と言われて、怪訝な顔をする弥彦に、女性は笑う。
「握手の意味ですねん。『あくしゅ』ってまだ上手いこと言われへんの。おかしいやろ?」
そう説明されて合点がいった弥彦が、改めて伊織に手を出した。

「おう!よろしくな!」

弥彦の手に小さな手が重なった。

「前にうちに来たお客はんが、この子のことよう可愛がってくれはって…。
こないして『あくす、あくす』って伊織とやってはったんよ。」

弥彦と伊織が仲良く手を合わせる姿を、女性は嬉しそうに見ていた。

「お二人はどっから来はったの?」
「東京です。ちょっと人探しに」
「おやまあ、こんな遠くまで。」
驚いて言った後に「ええお人なん?」と耳元で囁いた。
「い、いえ、違います!そんなんじゃ…」
と否定しながらもしどろもどろになる薫を見て、女性は声を出して笑った。
「あー、図星やな。隠さんでもええよ。でも、わざわざ東京からこないなところまで来はるなんて、
本当に大切なお人なんやねぇ」
「…は・はぁ…」
俯きがちに指を絡ませる薫に、女性は言った。

「思いは通じる、そう信じていれば、きっと願い事は叶う。うちはそう思います」

「あの…?」

「何事も諦めたら終わりや思います。思い続ければ、きっと願い事は叶うはずです。
だから、あんさんも頑張ってな。諦めたらあかんで?」

女性はそう言うと
「ほな、うちはもう行かんと。主人が向こうの店で待ってますねん。」
伊織、と声をかけて抱き上げる。伊織は「あくす、あくす」と嬉しそうに二人の前に手を差し出した。
「本当にありがとうございました。」
「お世話になりました」
小さな手が薫の手に触れた。その時、何故か剣心の手のぬくもりを思い出した。
深々と頭を下げながら、薫は温かな感触が残る自分の右手を見つめていた。


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