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ウタカタノユメ

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比翼の鳥①

おはようございます。

GWも最終日となってしまいました。いかがお過ごしでしょうか?
いよいよ実写版の予告が解禁になりましたね。タケルくんの剣心は相変わらず健在ですが、脇を固める江口斉藤やっぱりかっちょいい。やっぱり、アクの強い役は似合うなぁ。
藤原志々雄や神木宗ちゃんもいい味出しそう!
でも、気になるシーンが!
京都に行く決心をした剣心が薫ちゃんにサヨナラを告げるシーン。どうも昼間の設定らしいけれど、見間違いか?あれは、蛍の舞う夜(夕方)じゃないとダメなのよ~~。
あとで、も一回確認しよう…

さて、久しぶりにUP.今回は旧作です。祝言を挙げた剣心と薫の初夜のお話。少し続きます。
第2話以降、オトナ表現ありますが、18歳未満の方ご遠慮くださいませ。(今の所、カギを付ける予定はありません)






ざわめきが薫の中に、まだ残っていた。



これを、幸せのざわめき、というのだろうか。



一日中、自分の意思などおかまいなしに時間が過ぎ、周りに言われるがままに、着替え、食事を取り、座り、立つ。



隣に座る剣心を見れば、これまた同じように、戸惑った表情で慣れない格好に身を持て余しながら、しきりに視線をあちこちに泳がせている。



自分の家が自分の家でないような



自分の居場所がないような



そんな気分にもなるほど、剣心も薫も己のおかれた立場に困惑していた。



 



 



「ええお式やった」



 



妙の言葉に、薫ははっと我に返った。



前掛けで簡単に濡れた手を拭き、歩きながらそれを外して「ふう」と一つ大きなため息をつくと、卓袱台の前に腰を降ろした。



その動作を見届けて、薫は改めて居ずまいを正した。



「妙さん、今日は本当にありがとうございました」



深々と頭を下げて、心からの礼を言う。



「おかげで滞りなく祝言をあげることができました。妙さんがいなかったら、私も剣心もどうしていいのかわからなかったわ」



「いややなぁ、改まって」



妙は無邪気に笑うと、湯飲みに茶を淹れ、薫と自分の前に置いた。



「でも、ほんま、おめでとうさん。よかったなぁ」



妙は感慨深げに薫の顔を見た。うっすらと化粧を施した新妻が、あまりに初々しい。



今日、皆の祝福を受け、神谷薫は晴れて緋村剣心の妻となった。前川道場の師範夫婦を仲人に、二人の縁者が心から彼らの幸せを願った。



決して順調ではなかった。誰もがこの二人の幸せを願いながらも、誰もが一時はその幸せを諦めたのだ。



一番傍で二人の成り行きを見守っていた妙にとって、今日の良き日は、誰よりも喜ばしい日でもある。



「剣心はん、なんや、お式の間中もぞもぞしはって、傍から見てたらおかしゅうて」



客人を外まで見送っている剣心の顔を思い浮かべ、くすくすと笑って改めて薫を見る。



「幸せに、なり。あんたは、だれよりも幸せにならんとな。もう、二度と剣心はんの手ぇ、離したらあかんよ?ええな?」



妙の心からの言葉を、薫は真摯な気持で受け止めた。



「ありがとう。」



 



もう少しゆっくりしていって、という剣心と薫の声を、妙は軽く受け流す。



「新婚はんの大事な初夜に、長居するほどうちはいけずやあらへんよ」



頬を染める二人の前で、カラカラと大声で笑う。



「ほな、また。お疲れさんどした。今日は、ごゆっくり」



巾着を片手に、妙は足取り軽く帰って行った。



 



 



 



夜は静かに更けていく。



風が、隙間風となって廊下に吹き込んだ。



薄暗い中、寝室の障子を開けようとして、ふと手を止めた。



そうだ…私たち、祝言をあげたのだ。



薫の脳裏に、つい先ほどまで客間で執り行われた祝言の様子が浮かんだ。



お式の最中は、何も考えられなかったけれど…障子に添えた手がこころなしか震えている。



私、剣心のお嫁さんになったんだ…そして…そして…



薫の心臓が早鐘のように鳴っている。



この障子を開ければ、既に床に入ったであろう夫が、自分を待っている。



夫婦の契りをかわすことがどんなことなのか、男女の機微に疎い薫にとってはなす術も無い。



得もいわれぬ緊張が、薫の体を突き抜けた。こんなことなら妙さんにもっといてもらえばよかった…薫は目を伏せ、唇を噛んだ。



どんな顔をして、入ればいいのだろう。何を話したらいいのだろう。薫が半ば困り顔で小さなため息をついた時、目の前の障子がするりと開いた。



「風邪を…ひくでござるよ」



行灯の灯りだけが灯る薄闇の中、夫となった剣心が優しい眼差しを新妻に向けて立っていた。



「どうしたでござる」



目の前にしゃがみ、自分を気遣う剣心の声が、あまりに優しくて、薫は思わず泣きそうな気分になった。



「あ、あの…何でもないの、ごめんなさい。」



しどろもどろに答えながら、ふと剣心の顔を見たとき、薫の心臓が大きく跳ね上がった。



薄闇に微笑む剣心は、薫が今までに感じたことの無い男の香を漂わせていた。夜着の袷がはだけて、厚い胸板が見え隠れしている。今までに剣心を、これほどまでに男として、意識したことがあっただろうか



いつもと同じ人なのに、なぜ、今宵はこんなにも違うのだろう…



「風邪をひくでござる。さあ、中へ」



剣心に促されて寝室に入った薫の目に、並んで敷かれた二つの布団と箱枕が映った。



「あの、剣心、私、やっぱり…」



どうしていいかわからず目を逸らす。



ふと、このままどこかへ逃げ出したい感情に襲われた。



薫がわずかにあとずさりをした時、剣心の手が薫の腕を掴んだ。



「薫殿…」



「剣心…」



「拙者が、怖いでござるか?」



剣心の問いに、薫は慌てて首を横に振った。



「違う…そうじゃないの…」



薫はその場に座り込み、高鳴る胸を両手で押さえた。



「ごめんなさい。あなたのお嫁さんになったのに…すごく嬉しくてたまらないのに、どうしていいかわからなくて…」



子供みたいで、ごめんなさい。薫はそう言って剣心の前でうな垂れた。



 



今にも泣きそうな薫の頬を、剣心の両の手が優しく包み込む。



「すまぬ。薫殿…怖がらせてしまったようだ」



薫の体を引き寄せて、まるで赤子をなだめるように肩をやさしく撫でている。



「薫殿…こんなことを言ったら誤解されるやも知れぬが…拙者も男ゆえ、薫殿を抱きたいと思っている。」



あまりに唐突なその言葉に、薫は顔を真っ赤にして俯いた。まさか、剣心の口からそのような言葉が出てくるとは思わなかったからだ。



「薫殿。男がおなごを、そしておなごが男を求めるのは、何の不思議もない。人間ならば、ましてや夫婦になったのならば、それは自然の感情でござる。」



剣心は俯く薫の顔をついと上げた。



「こうして、肌と肌をあわせると、こんなにも温かい。そうではござらんか?」



触れている部分――それは腕であったり、肩であったり――から、やんわりとしたぬくもりが伝わってくる。



薫の全てを包み込むような、やわらかで温かなぬくもりだ。あれほど高鳴っていた動悸が治まり、薫の緊張が少しずつほぐれていく。



「拙者は、今日、祝言の間中、人の縁(えにし)の不思議さを、つくづく感じていたでござるよ」



「人の…縁…?」



「そうでござる。拙者と薫殿。あの月夜の晩、ほんの小さな偶然の出会いが、めぐりめぐってこうして互いの伴侶としてここに存在している。拙者と薫殿は、目に見えない糸で繋がるように出来ていたのかと思うと、縁というものはなんと不思議だと思うのでござる。一度は失いかけたその糸を、拙者はこれからもずっと…一生、大切にしたいと思っているでござる」



自分の言葉に照れたのか、剣心は恥ずかしそうに頭を掻いた。



「ははは…格好つけすぎでござったかな」



「剣心」



薫は剣心の体から自分の身を起こすと、居ずまいを正し夫の顔をしっかりと見つめた。



もう、先ほどまでの緊張は失せている。



「本当に、本当に、何も出来ない不束な嫁ですが、どうぞよろしくお願いいたします」



三つ指を付き、深々と頭を下げた。



「あなたの妻になれて、私は世界一の幸せ者です」



恥ずかしそうに微笑んだとき、剣心の両手が薫の体を再び抱きしめた。



「薫…」



力強く抱きしめられ、髪を撫でられた。愛しそうに頬擦りをされたとき、ざらりとした感触が薫の頬に残った。それが、夜になってうっすらと伸びた髭だとわかったとき、薫は剣心を紛れもない大人の男として意識した。再び胸の鼓動が早鐘のように鳴り始める。



だが、もう躊躇わなかった。



いや、それどころか、己の身を全てこの男に委ねたい、と思った。


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