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ウタカタノユメ

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もはや、恋⑦


新年、明けまして おめでとうございます

昨年は、再び、るろうに剣心のサイトを立ち上げ、皆様方に応援いただきました。なんか、「普通のおばさんに戻りたい」と言ったけど、また戻って来ちゃった、みたいな感じですが、どうか、今後ともぜひよろしくお願いいたします。新作も少しずつですが、手がけております。
いつの日か、皆様にご披露する日が来ようかと思いますので、どうぞゆっくりとお待ちください。

さて、お正月休みはいかがお過ごしでしょうか?
我が家では、正月早々、洗濯機が大暴走しまして、脱衣所が洪水、ちょうど雑煮を作っている最中でしたので、てんやわんやの大騒ぎでした。
更には、初夢が「殺人事件に巻き込まれる」という、なんとも将来を予測させてしまうような夢…うひゃ~!!女刑事の役でしたらまだ「カッコイイ!」と言えますが、ただひたすら怖がっている情けない役でした…ort
なんか、私の行く末を暗示しているようだわ…

さて、「もはや、恋」最終話、本日UPでございます。
恋に臆病な朴念仁クン、早くしないと、どこかの馬の骨に取られちゃいますよ~(笑)
では、どうぞ、お楽しみください。









「味噌と醤油を買うだけでござる。すぐに帰るでござるよ。」

歩きながら、ぶつぶつとひとりごちる。何故か自然と足早になる。いや、何故もへったくれもないのだ。足早になる理由はただひとつ。薫が気がかりだからだ。ぶつぶつと言い訳をするのも、自分の行動を正当化したいから。
恋愛感情など生まれるはずもない。たかが二ヶ月共に暮らしただけで、そんな気が起きるはずもない。何度もそう思うことで、素直な気持ちに蓋をしている。

それに…もう、色恋は…

そう思ったとき、人の気配を感じた。立ち止まって、前を見た。こういうとき、目がいいのはどうかと思う。剣心の眼に映る見慣れた姿。いつもより少し余所行きの着物は、普段着のときより数倍艶やかだ。
何故、こうして、彼女のことを気にかけるのだ。自問して出てくる答えに首を振る。認めない。いや、認めてはいけない。
ああ、もう、帰ろう。もしも彼女が後ろを振り返ったら、きまずい事この上ない。
そう思って踵を返そうとしたその時…。

「あら、剣心!!」

嬉しそうな声が届いた。その零れるような笑顔に、一瞬眩暈がした。
そうら、みたことか。どうする。この気まずさを、何とする。
己の中のもう一人の自分が、嘲るように笑った。

「こ、これは、薫どの…」

いつもより小さい声を出すのがやっとの状態だ。ああ、このまま、どこかへ消え去りたい。自分の弱々しい姿を見せたくはないのに。

「どこへ行くの?」
「あ、いやー、その味噌と醤油を…」
「え?また、買うの?昨日買ったばかりなのに?」
「そ、そうでござったか?いや、拙者としたことが、これは失敗…」

声が上ずっているのがわかる。なぜ、こんなに動揺しているのだ?

「まだ、買っていないんでしょう?当分いらないんだから、もう帰りましょう?あ、そうだ!春やのお饅頭、買って行こうか?私、なんだかお腹すいちゃった」

無邪気に笑うその顔に、ほんの少しの幼さが残る。
肩を並べて歩くことが、こんなにも心地よかったのか。
出来るなら、この時間がいつまでも続けばいいと願った。
剣心は、となりでひっきりなしに喋る薫の横で、束の間の幸せを感じていた。

「私ねぇ…」
他愛もない会話が一瞬途切れた。その時見せた、寂しそうな表情を、剣心は忘れない。

「今日、お見…」
「おおおーーっ!!薫殿!!!」

薫の声をさえぎるように、剣心が素っ頓狂な声をあげた。
「何?何?どうしたの?」
「いや…あの…」
その後の言葉など、続くわけがない。なぜなら、薫の口から縁談の話を聞きたくなくて、咄嗟に口をついて出てきたからだ。これも無意識にやったことだ。

「あ。あの、左彦と弥之助が、その…」
「さひことやのすけ?いやねえ?弥彦と左之助でしょう?」

薫が声をたてて笑った。自分の慌てぶりの、なんと滑稽なことか。
「それで?またあの二人、何かしたの?」
「いや、そ、そうだ。薫殿の料理は案外美味いって。」
「え?本当?」
「ほ、本当…」
嘘だ、と心で呟いた。勿論、そんなことは決して言えるはずもないが。
「ふーん。そうか、私の料理もなかなかの腕前ってわけか」
そう言って、左の頬だけで笑うと、
「じゃあ、今度、また飛び切り料理を作ってあげるわ」
と、意気揚々として歩き出した。
「薫殿、さっき、何か言いかけたが…」
「ううん。なんでもない。今日の出来事をちょっと話そうとしただけ、他愛もないことよ。何が起きたか、忘れちゃった」
縁談が他愛もないはずない。ましてや、忘れるなどあるはずもない。
だが、薫は、まるで他人事のように、今日のことを収めようとしていた。
春やの饅頭を買った薫は、いつになく上機嫌だ。剣心の頭の中で、今日の見合いの結果が引っかかっていた。だが、それを聞けるはずもなく、ただ黙って薫の話を聞いていた。
自分の心に芽生えた、不思議な感情。それをどうすることもできず、ただただ右往左往している。だが、一つ言えること。それは、目の前で屈託なく笑う十七の少女が、どれほど自分の心を癒してくれているか、と言う事だ。
流浪の旅を続けて、十年。ここに、とどまりたいと思ったのは、初めてだ。
この先、ここにとどまり続けることは無理だとわかっている。
いつかは、別れの日がくることも承知している。
だけど。もう少し…もう少し…

「薫殿…」
「なあに?」

少し先を歩く薫が、満面の笑顔で振り返った。

「もう少し…もう少し…神谷道場に居候させてもらって、よいだろうか?」

突然の言葉に、薫は目を丸くして剣心の顔を見た。だが、すぐに、その顔は飛び切りの笑顔に変わった。

「やあね?あたりまえじゃない」

ああ。これが、今日の見合いの答えと思っていいだろうか。
剣心は、小さく安堵のため息を漏らした。


少女の中で芽生えた恋心は、いつしか大きくなっていた。
そして、赤毛の居候の心の中にも、少しずつ形を変えて、何かが変わりつつある。
それが、もはや、恋なのだと、自覚するまでには、あと少し…。

…翌朝。

「薫…変な男が来てるぞ?」
玄関を掃除していた弥彦が、訝しげな顔で薫を呼んだ。
「変な男?」
誰だろう、と廊下の奥から玄関を見た。剣心も台所から怪訝な表情で二人を見ていた。
「いいわ。私が出る。もし何かあっても、追い出してやるから!」
そう言って玄関へ向かったすぐ後、悲鳴にも近い男の声が、神谷家に響いた。

「薫さん!!どうか、僕と結婚してください!!僕、昨日、あなたに殴られて、目覚めたんです!!あなたみたいな女性が好きなんです!どうか、お願いします!!」

「きゃ~~~っ!!もう、諦めて~~!!お願い、帰って~~!!けんしーーーん!!助けて~~っ!!」

薫の悲鳴を、弥彦が大笑いで見ている。いつもながらの賑やかな光景に、剣心も思わずつられて笑う。
風は日増しに温かくなってきている。
春本番はもう間近。
夢見月の空は真っ青に晴れ上がり、神谷道場はいつもの暮らしが始まろうとしていた。

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