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ウタカタノユメ

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蝉時雨

こんにちわ。

GWですね。みなさん、いかがお過ごしですか?私は前半お金を使いすぎ、貧乏していますort

愚息が帰省、二泊して今日帰りました。なんだか嵐の如く、ですね。もう少しゆっくりすればいいのに。
久しぶりにゆうべ、家族4人でカラオケに行って来ました。一度歌い始めてしまうと、もう止まりませんね(笑)
やっぱり声を出すのはストレス発散に繋がります。

さて、今日は単発もののUP。新作となります。勝のおじさま(笑)登場。どうも剣心は勝さんに気に入られてしまったようで、京都の土産話でも聞こうと道場に立ち寄ったようですよ。
実はあまり深い意味もなく、勝さんを書きたくてこんなお話を思いつきました。
ではでは、どうぞ。





蝉が、鳴く。

朝からうるさいほどに。人は、蝉の一生を、その鳴き声に重ねる。命の短さ。人の世の儚さ。だから、余計にその鳴き声を疎ましく感じるものなのだろうか。
夏掛けから無造作に足を突き出した格好で、勝は外から聞こえてくる蝉の大合唱を聞いていた。眉間に皺をよせ、「ちッ」と舌打ちをする。太陽は既に高く昇り、朝と昼の間くらいだ。

たまったもんじゃねえよなぁ。そうでなくとも暑くて眠れねえのによ。

ざんばら頭を人差し指でぽりぽりと掻く。
「…いるのかい?」
そのままの格好で、低い声を出した。
「…へい。ただいま、帰ぇりやした」
障子の向こうから、くぐもった声が聞えた。
「ご苦労だったな」
大きな欠伸を一つ漏らし、ふう、とため息をつく。声の主は、障子の向こうに座っていた。
「あっちの蝉は、鳴きやんだか?さぞかし煩かっただろうなぁ」
「へい。一応の結末は…」
「あの男が、か?」
「最後の最後まで、追い詰めました。ただ」
「ただ、何でぇ?」
「死んだモン勝ち、って言うんですかね。確かに二人、戦いはしたが、包帯男は人体発火でくたばりましたよ」

ふーん、人体発火ねぇ。

勝は頭の後ろで両手を組んだ。目の前に天井の木目が見える。
「死んだ方が、勝ち逃げっていうのかい?」
「見た目には、抜刀斎の勝ちですが…本当のところは俺にもわからねえ。剣の腕は互角だって話ですから…でも、まあ、とりあえず表面上は、何とか無事に済んだ。川路様もほっとしてるでしょう。」

川路か…勝の顔が歪んだ。
どうも、アイツの仏頂面は気に食わねえんだよな、と勝は一人ごちる。
「ともかく当分は、平穏になるでしょうね。まあ、こういうご時世だ、いつ同じようなことが起こるかわかりやせんがね」
そうかい、と勝は抑揚のない声で言った。
「ありがとよ。礼はいつもの通りだ。受け取ってくんな」
ありがとうございやす、と言うなり、男の気配は消えた。

「帰(けえ)って来たか」

ふと、そこで気づいた。口元が、笑っている。無意識のうちに、笑みを浮かべていたらしい。

…オイラが?

ったく、しょうがねえなぁ。
勝は再び大きな伸びと共に、欠伸をした。蝉が一瞬鳴き止んだが、再び大合唱を始めた。



――暑…い

こめかみから流れる汗を、手の甲で拭った後、薫は眩しそうに空を見上げた。太陽の力が、こんなにも強いとは。ふと垣根を見れば、朝顔の花が、まるで叱られたようにしな垂れていた。
それでも、と薫は思う。暑いと感じるのも、汗が出るのも、命があるからだ。京都の戦いを経て思うのは、生きていることへの感謝だ。
京都から戻った後、剣心は時々微熱を出すようになった。恵はその症状を想定内と言っているが、医学の知識が乏しい薫にとっては心配の種である。
すぐに起きて動き回る剣心を、あなたはどうして…と叱って詰め寄る。苦笑いの男は、後ずさり、ごにょごにょと言い訳を言っているが、結局、最後は許してしまう。薫にとって、あの笑顔は反則だ。
だが、それも、生きていてこそ。困ったような男の顔を思い出して、薫は頬を緩ませた。

「ごめんよ」

垣根の向こうから、しわがれた声が薫の耳に入った。今のしまりのない顔を見られたか!?と薫は慌てて声の主を探す。夏の光の向こう側に、その老人は立っていた。慣れっこい笑顔を浮かべた男、だが見覚えはない。
薫は訝しげに「はい」と答え、「どちらさまでしょうか」と続けた。

「ここは、神谷さんちかい?」
「ええ、神谷道場ですが」

まさか、入門希望者?と声が出そうになった。薫の心の内を見透かしたかのように、
「違う違う、オイラ、ヤットウは全く興味ねえんだ」
と、右手を顔の前で二、三度横に振った。

「やっこさん、いるかい?」

慣れっこい、穏やかな目が、薫の後ろに注がれていた。
やっこさん…ああ、もしかしたら…

「剣心の…緋村のお知り合いですか?」

自分に知らない客人なら、あとは消去法だ。左之助も弥彦も、おそらくこの男とは関係ない。それならば、残るは剣心だけだ。
知り合いね、と呟き、
「まあ、そんなもんだ」
と笑って、左手をわずかに上げた。その手の先に、風呂敷に包まれた一升瓶が揺れていた。
「生憎…」
剣心の知り合いと知って、安心した表情を浮かべた。京都の一件以来、どうも必要以上に警戒する癖がついてしまったようだ。こと、剣心については、尚更だ。これ以上、もう離れるのはご免なのだから。
「お医者様の所へ出掛けておりまして」
薫は済まなそうに目を伏せた。
「そうかい」
「でも、間もなく戻ってくるかも…もしよろしければ、冷えた麦湯でも召し上がって行って下さいな。こんな暑い中、わざわざお越しいただいたのですもの」
薫はそう言うと、老人を庭に招き入れた。

縁側に座った老人は、
「オイラ、勝ってんだ。」
と、細い目を更に細くして名を名乗った。
勝…確か、元号が明治に移るころ、将軍様(うえさま)の傍にそんな名前の人がいたと、亡き父が教えてくれた。だが、目の前にいる老人は、どこにでもいるような老人だ。ぶっきらぼうで遠慮会釈もないこの男が…?まさかね、と薫は自分の中でその考えを消した。
「あの…剣心とは…」
麦湯と一緒に、昨日求めたばかりの春やのまんじゅうを添えて出す。今の薫にとっては、目の前の老人の来し方よりも、剣心とのかかわりの方が大切だ。

「そうだなぁ」

馳走になるぜ、とまんじゅうを頬張り、相好を崩す。うめえ、と自然に言葉が漏れた。

「お茶飲み友達…ってところかな」

思わず、吹き出してしまった。剣心らしいといえばそうなのだ。何故か、女子供、そして、老人から気に入られる。薫の笑いっぷりに、勝が唇を尖らせた。
「何でぇ?お嬢さん、そんなに可笑しいかい?」
「あ、ご、ごめんなさい。」
と、一応の詫びを言って、すぐまた笑い出す。剣心って、やっぱり「人たらし」なのだ。
悪い人ではなさそうだ。二個目のまんじゅうを頬張る勝を見ながら、薫は安堵していた。

「で、どうなんだ?あの野郎、怪我でもしたのかい?」

薫の表情から、スッと笑いが消えた。
「…少し。でも、ようやく良くなりました。」
「あんたも、心配が尽きねえなぁ。生きた心地がしねえだろうよ?」
勝が薫の顔を見る。その表情に、やはり笑顔はなかった。
この老人は…剣心の、何を、どこまで知っているのだろう。返答に渋っていると、
「あの男はさ、結局、何でもかんでも背負っちまうんだろうなぁ。」
「…勝さん?」
「いや、オイラはヤツとはそうそう深く話したこともねえが、この齢(とし)になるとな、たいがいの事たぁ、わかっちまうんだよ。」
薫は曖昧な笑みを浮かべた。
「人間、生きていりゃあ、辛れぇこともやりきれねぇ事も、山ほどある。普通はそっから逃げようと躍起になるが、あの男は違う。全部、自分で負っちまうんだ。頼まれてもいねえのによ。しかも、滅法頭がキレるから、何かあるたびにあの男が出張っちまうんだ。で、解決しちまうから、余計性質が悪りぃ。オイラも今までいろんなヤツに会ってきたが、あんな男は…そうさなぁ…二人目だな」

薫は膝の上で拳を握る。多分、この老人は、嘘をついていると思った。剣心との関わりを、茶飲み友達と笑っていたが、そうではない。少なくとも、己の無聊を慰めるための相手に剣心がいるのではあるまい。
「でも、あんたみたいな人が、そばに付いていりゃあ、ちったぁヤツも気持ちがほぐれるだろうよ」
勝の言葉に、そうでしょうか、と気弱な声で返す。
「何でぇ?ずいぶん、自信がなさそうだな」
「剣心は…なかなか気持ちを言葉にして伝えてくれないから…私が少しでも支えになれていたら嬉しいけれど…」
そこまで言って、思わず口を閉ざす。
「やだ、私、初対面の方に、何愚痴を言ってるんだろう」
ごめんなさい、と頭を下げて、空になった湯呑に麦湯を注いだ。あの男らしいや、と勝は苦笑した。

「いいかい、男ってぇのは、オイラみたいにおしゃべりなヤツがモテるんだ」

と軽口をたたいて薫を笑わせたが、やがて、

「ま、でも、あの男は、あんたじゃないと、ダメだろうよ」

勝は空を仰いでいた。

「あんた、いい顔して笑うねぇ。だから、やっこさん、ここに居るんだろうよ」

薫は思わず目を瞠る。何故か、心がふわりと軽くなった。勝に言われると、例えそうでなくとも、あり得る話に聞こえてくるから不思議だ。女にモテると冗談めかしているが、あながち嘘ではないのかもしれない。
「おっといけねえ、こんな時分か」
よっこらしょと、縁側から勝が立ち上がる。
「今から、女のおしゃべりに付き合わなけりゃいけねえんだ。ったく、勘弁被りてぇよなぁ」
そう言いつつも、まんざら悪い気もしていないのは、その表情から伺える。
「何のお構いもしないで、申し訳ありません」
勝を見送る薫が、頭を下げた。
「なあに、こうしてあんたと話が出来た。野郎の顔見るより、よっぽどいいや」
酒は、見舞いだ、やっこさんに渡してくんな、と言葉を添えた。
「なあ、お嬢さん。男ってのは、帰る所があるからこそ動けるんだ。それに意外と意気地がねえもんなのさ」
「…はい」
「やっこさんも、同じだろうよ。あんたが笑って待っていれば、そりゃ随分心強ぇだろうなぁ」
そんじゃあ、邪魔したな。
勝は振り返らず、片手をひらひらとさせて帰って行った。


なあ、抜刀斎さんよ。

蝉時雨の中、勝は立ち止まる。
たった一人の女の笑顔守るために、お前さんは動いた。どうでい。オイラの言ったとおりだったろう。見ろ、幸せそうに笑ってるじゃねえか。
良かったなぁ…

だが、この後、この国がどう動くのかは、闇の中だ。剣心が京都に行ったことも、全てはかつての行いの尻拭いをさせられたにすぎない。土台、国を動かすことは、きれいごとでは済まされないことを、勝も剣心も十分に知っている。勝が昔そうだったように、剣心とて、駒にしか過ぎないのだ。
今後、緋村剣心という男が、本人の意向とは関係なく、この国の将来に携わって行くことは明白だろう。だからこそ、お嬢さん、あんたの屈託のなさが、必要なんだよ。

相変わらず、うるせえな…
恨めしげに樹々を見ながら、でも、心は幾分軽く、勝は次の場所へ向かって歩き出した。


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