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ウタカタノユメ

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この、長い上り坂

こんばんわ。

部屋の中が異常に暑い!!
室内で熱中症になるって、わかる気がします。エアコン無しじゃキツイわ~

さて、旧作をUPです。前回の「生(せい)」は、今回UPの「この、長い上り坂」を意識して書いた作品です。そして、久々にこの作品が日の目を見ます。良かったね~(笑)
「かおりちゃんねる」時代に、この作品をUPしたら、「薫はそんな弱い人間じゃない」「私なんか、って言うセリフは薫には合わない」などのご意見をいただきました。もー、みなさん、薫ちゃんLOVEなのね…いや~、結構結構。ヒロインを応援したい気持ちは重々承知です。
でもね、私の中の薫ちゃん、けっこうヘタレなんですわ(笑)だから、「私なんか」的な発言がすぐに口をつく。でも、私、そんな薫ちゃんが結構気に入っていましてね。いざというときはリボンをきりりと締めて、凛とする勇ましい彼女。でも、普段は、意外に脆い面を持っている。
人間らしい薫ちゃんが我ながら可愛いなと思ってしまいます。

剣心のようなすごい男の伴侶になるのだから、心配は尽きないと思いますよ。もう、脳内、「どーしよ~~!すっげ~男、好きになっちまったじょ~~~」って、滝の涙出してるかも。
もしかしたら、陰でタライかなんか抱え込んで、「げ~~~!有り得ね~~」とか言ってるよ、絶対。それだけ、剣心ってすごい男なんだもの。
ま、まあ、タライは冗談にしても(←薫ちゃんFANからメッタ突きにされそう…)、とにかく、それほどすごい未来を抱えたってこと。そのスタートラインに立った時、ちょっとくらい弱み見せてもいいかな~って思い、こんな仕上がりになりました。
ということで、ヘタレな薫を見たくない方は、どうぞスルーっていうことで。

それでは、どうぞごゆるりと。





秋に差し掛かったとはいえ、照りつける太陽はまだ容赦なく暑い。
じりじりと背中を刺す陽射しの強さは、ここが京都だということを
改めて思い起こさせた。
同じ暑さでも、東京とはこんなにも違うものか。こめかみを流れた一筋の汗が、
顎先からぽたりと落ちて、地面に小さなシミを作った。

 

   この、長い上り坂

 

上り坂を剣心から少し遅れて歩けば、何度か彼は私の方を振り返り、心配そうな表情を浮かべる。
大丈夫よ、と目で訴えれば、安心したようにまた踵を返して歩き始めた。

私は彼の背中を見つめる。そしてその視線は自然、彼の右手に注がれる。
白い晒しに巻かれたその腕は、未だ癒えることのない傷。本人はこのくらい、と笑うが、
時折歪むその表情を私が見逃すはずはない。

傷が、痛むのか。

心が、痛むのか。

きっとその両方なのだと、私は彼の腕から視線を反らした。

 

 

それにしてもなんと坂の多い町だろうか。以前来た時はたいして感じなかったが、
今回はやけにそれが気にかかる。いや、坂の多さが気になるのではなく、この道の
先にあるその場所に行くことが、私の歩みをより重くしているだけなのだろうか。
間もなく着くであろうその場所を思いながら、私は軽く唇を噛んだ。

 

何と言おう。
そこに眠る女性(ひと)に。
何と声をかけたらいいのか、言葉が見つからない。

剣心はこの戦いで己の行くべき道を見つけた。
私も彼について行こうと心に決めた。その思いに、偽りはない。
でも、本当に彼の心の傷が癒えたのかどうかは、私には正直まだわからないのだ。

 

妻をその手で殺した。
義弟(おとうと)は、復讐鬼となった。
そして、結局は生きていたとは言え、一度は私を失った。
立ち直ったと、もう大丈夫だと、彼は言う。けれど、私は彼がその背に負うあまりに
大きなものを思うと、やはりうろたえてしまう。

彼が潰れはしないか、と。

私に支えきれるかと。

私のような、何の取り得もない女が、そう易々と支えきれるほど、彼の行く道は平坦ではない。
それくらい、重い人生なのだ。彼の人生は。

 

「どうかしたでござるか?」

 

俯き歩く私の耳に、剣心の穏やかな声が届く。
ああ、大丈夫よ、と言おうとして、顔を上げれば、そこにはとても悲しそうな目をした剣心が、
私を見ている。
この人も、やはり不安なのだろうか。
そして、彼は彼女に何と言うのだろうか…
それを考えると、少し心がきゅんとなった。

 

「剣心…大丈夫?」

今度は逆に私が聞き返した。
「拙者は、大丈夫でござるよ。傷もそう痛まないし。」
「そうじゃないの。傷は、勿論心配なんだけど。その…なんと言うか…」
私の、要領を得ない質問に、彼は少しだけ困ったような顔で笑った。
私の不安が伝わってしまったのだろうか。

「拙者は、大丈夫でござるよ。今日は自分の気持を新たにするために、ここへ来たのだから。
 薫殿と共に一歩を踏み出すために。」

様々な思いが彼の心を支配していて、そこから抜け出すために彼は今日私と共にここに来た。
そう。これからの重い人生を、しっかりと歩むために。

「剣心…ひとつ、聞いてもいい?」

私の問いに、「なんでござるか?」と首を傾げた。

「私…私でいいのかな…」

声を出した途端、後悔をした。また剣心を不安にさせるような事を言ってしまった。
自分の不安をそのままぶつけていたら、これから先、思いやられるではないか。

「薫殿…」

「あ、ごめんね。違うの。誤解しないでね。私みたいななんの取り得もない女が、
 あなたを上手く支えられるだろうかって。いつも心配になるのよ」

上り坂の途中で向きあいながら、私たちは互いの顔を見つめた。熱い風が、私の髪を撫でて通る。

「薫殿でなければ…」

剣心は真剣な眼差しで私を見つめた。

「薫殿の笑顔がそばにあれば…」

乗り越えられる、と言うのか…

私の笑顔なんて、と言葉に出そうとした瞬間、恵さんの言葉を思い出した。

 

―――剣さんの十字傷に効く一番の薬は、あなたの「笑顔」、なのだと。

 

「そばで笑ってくれればいい。己の罪を共に背負わせるのは、本当に申し訳ないと思う。
 だが、薫殿の笑顔が、拙者にとっては何よりの心の支えになるのだと、今回の戦いを
 通してつくづく思ったのでござるよ」

剣心は私に少しずつ近づいて来る。彼の足元から、小さな小石がころころと下に落ちて行った。

「もう二度と、薫殿を失いたくない…」
「剣心…」

一瞬、風が止まった。

静寂が私たち二人を取り巻いている。

 

――ねえ、剣心。

私の笑顔が必要だと、あなた、今そう言ってくれたわよね。
こんな私の笑顔でよければ、いくらでもそばにいて笑顔を見せるわ。
それであなたの心が少しでも癒えるのなら、私、どんなことがあっても涙など見せない。

 

私を選んでくれて、ありがとう。

私は少しだけ顔を背け、溢れ出そうな涙を必死で押さえた。

 

 

彼女が眠るその場所は、暑い日差しから彼女を守るように、大木の葉が覆っている。
四方(よも)に広がるその枝葉が、風に揺られてざわざわと鳴いていた。

こんな小さな所で、彼女はたった一人眠っていたのか。
丸い墓石を見たとき、思わず涙がこぼれそうになった。
気がつくと、私はその丸い小さな墓石に手を触れていた。

「ここの和尚が、桂さんと顔なじみで、巴の亡骸を全て引き受けてくれたのでござるよ。」

剣心は墓前に座ると、周りに落ちた葉を数枚拾い、大木の根元に撒いて捨てた。

私たちは同時に手を合わせた。誰かが置いた簪は、ひどく剣心を驚かせたが、それでもそれは
彼女がこの世に生きていたと言う証。今もこうして慕ってくれる人がいるという証なのだ。

 

巴さん…

私ね、剣心と共にこれからずっと歩いていきます。本当ならこの人の横にはあなたがいて、
ささやかな幸せを紡いでいくはずだった。こんな私が…あなたと比べたら、賢くもないし、
ちっとも立派な女じゃないけれど…剣心の役に立てるか心配だけど、彼を思う気持は決して
誰にも負けはしない。
だから…心配かもしれないけれど、この人を私に任せてくれませんか…

それから、剣心を守ってくれてありがとう。

この人を生かしてくれて、ありがとう…

 

「薫殿」

ずっと手を合わせている私を、剣心が呼んだ。
私は彼の顔を見た。彼女に伝えた言葉は、何だったのだろうか。

「―――すまない、ありがとう。そして、さようなら」

彼の選んだその言葉は、未来へと繋がる言葉として受け止めていいだろうか。
決して許されることのないその罪を抱えながらも、未来に向けて一歩一歩歩いていく。
そしてその伴侶として、彼は私を選んでくれた。
巴さんは、それを許してくれるだろうか。

「薫殿…」

剣心は私の目を見つめ、静かに、しかしはっきりと言った。

「ひとつだけ…一つだけ約束して欲しい。」

「剣心…?」

 

「拙者より先に逝かぬ、と」

 

私の目の前に差し出された彼の手。
あまりにぎこちなくて、少し震えていた。
けれど、触れたその手は温かい。それが嬉しくて、またもや涙が出そうになった。

 

逝くわけがない。

あなたを遺して、どこへ行くと言うのか。
決してこの手を離すまい。どんなことがあっても、この温もりを失ってはいけない。
巴さんの分まで、私はこの人と共に生きていくのだ。

返事の変わりに、彼の手をぎゅっと強く握った。
彼の目が、優しく笑っていた。

 

日差しは相変わらず私たちを容赦なく照りつける。
山門をくぐり周りを見回せば、眼下に京都の町が見えた。そこからは、息づく町の様子が、はっきりと見て取れる。

さあ、帰ろう。
この人と生きていくために。
長い長いこれからの人生を、確実に、しっかりと生きていくために。

巴さん…

また、来ます。

 

風になびく髪に手をあて、私は彼女の眠る墓に、静かに頭を下げた。


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